『当事者の人生に寄り添う ~演劇×社会福祉の公演を通して~』


社会学部 身体表現と舞台芸術メジャー 中越唯菜 さん
高知県立梼原高等学校出身。

NPO法人SAJA就労継続支援B型事業所たんぽぽ(※1)(以下「たんぽぽ」という。)と本学学生とで創作に取り組んだ、
四国学院大学社会学部プロジェクト演劇公演『ダンデライオンズ』。
(脚本・演出:仙石桂子 振付:白神ももこ(モモンガ・コンプレックス))
たんぽぽのメンバー3名の人生について話を聞き、3つの短編作品が上演されました。
『柿沼さんのお話』で近藤(ケースワーカー)、相馬(たんぽぽスタッフ)の2役を演じた中越さん。
なかでも相馬は、主人公・柿沼にとって重要な役どころでした。
当事者の方と一緒に作り上げていくという新たな試みの中で、どのようなことを感じ、演じていたのでしょうか。

今回の作品は「社会福祉と演劇ワークショップ」(※2)という授業で創作に取り組んでいます。中越さんは2021年度に履修していますが、履修しようと思った理由を教えてください。

――元々、母と祖母が介護福祉士をしていて、福祉が自分の中で密接にありました。四国学院大学に入学したのも、メジャー制度を活かして、演劇だけではなく、福祉などの勉強もしたいと思ったからです。でも、演劇に集中してしまって、なかなか福祉の授業が取れずにいました。そんな時に、「社会福祉と演劇ワークショップ」という授業が新設されて、ようやく自分が学びたかった社会福祉と演劇が一緒に学べると思い、嬉々として受けました。

「社会福祉と演劇ワークショップ」の授業ではどのようなことをしましたか?(2021年度の授業内容)

――授業では、仙石先生が各地で行っていたワークショップを体験しました。授業の最終目的は、自分たちでワークショップの進行役(ファシリテーター)ができるようになることでした。そのために、どういう人を対象に、どんなことをやりたいか、ということを自分たちで考えて実際にワークショップをやりました。二人組でペアになってやったんですけど、私は対象者を何歳とか、障害を持った方などの制限をかけずにどんな人でも関わって一緒にやれるワークショップをやってみたいと思い、簡単なジェスチャーゲームのようなワークショップを考えました。ジェスチャーゲームだったら年齢関係なく、いろんな人と交流しながらできるかなと思ったからです。言葉を使わないジェスチャーゲーム、人間彫刻など、ゲーム感覚のワークショップを企画しました。実際に企画してみて、自分たちが思っていた以上に、人に説明するのが難しいなと思いました。やったことがある人にはすぐ伝わるけど、やったことがない人に的確に伝えるにはどうすればいいんだろう?ということは授業の中ですごく悩みました。自分たちの当たり前で話をしないこと、その人の目線に立って考えること、自分たちの反対側から見ることを意識することが大事なんだと改めて気づきました。

たんぽぽの方との交流や稽古はどうでしたか?

――私は仙石先生が台本をおこすためにたんぽぽへインタビューに行く時、一緒に連れていってもらったことがあります。勝手な偏見で対話が難しいのかなって思っていたんですけど、全然そんなことはなくて、自分が今やっていることをすごく楽しそうに教えてくださって、とても生き生きとしていて、生命力にあふれているように感じました。当時の自分にそこまでの生き生きしたものがなかったので、素敵だなと思ったことを覚えています。
 最初は身構えすぎていました。でも、皆さん私たちと同じ今を生きる方たちで全然変わらないなと思いました。むしろ実際にいろんな経験をされているからこそ、私たちが学ばせてもらうことの方が多かったです。たんぽぽの皆さんにとっては初めての演劇なのに、しっかり向き合ってくださっていて、ゲネプロ前の稽古の時は学生の私たちよりたんぽぽの皆さんの方が仕上がっていて、焦るくらいでした。それぐらい真剣に一緒にやってくださったという事実がすごく嬉しかったです。障害があるとかそういうのを抜きにして、人と人としての対応や対話ができたんじゃないかなと稽古を通して思いました。
伝え方という点では、たんぽぽの方は初めて演劇を行うので「この時はこうしたらいいですよ」とちょっとしたサポートをさせてもらったことがあります。説明の仕方や対話をする時、どの視点で一緒に考えればいいのか、ということは授業で学んだことが活かせたと思います。

演じた役はどんな役ですか? また、役作りで工夫したことを教えてください。

――私が演じた相馬さんは、『柿沼さんのお話』の当事者の方から、人生や考え方、人との接し方を変える一因になった人だということを聞いて、私に務まるのかな!?と最初は不安でした。シーン的には長くはないのですが、直前にバイオレンスなシーンが多く、そんな柿沼さんの気持ちや考え方を変えられたくらい明るい人、ということで常ににこにこしていた人だったのかなと想像しながら役作りをしていました。私自身明るい性格なので、自分の明るい部分を全面に出して演じました。相馬さんは私自身に近いところもあるし、常に明るくてニコニコしていて、周りのことも気にかけている、私の憧れの人物像に近い役でした。
相馬さんが出てくる最後のシーンは、相馬さんが柿沼さんに相談みたいな形で喋るということしか決まっていなくて、仙石先生には「アドリブでよろしく」といわれていました。でも私はインプロが本当に苦手で、うまく頭が回らないこともあったんですけど、喋ることは苦手じゃないので、自分の思いついた彼氏の愚痴っぽいことをバンバン言ってみようと決めて、ずっと試行錯誤していました。直前にこれで固定しよう、というのが決まってよかったです。あのシーンは無口だった柿沼さんがハハっと笑う感じで終わりたいという結末は決まっていたので、どうやったら柿沼さんが笑ってくれるような話ができるかな、と考えて、同期や友達にたくさん話を聞いて決めたので、本当に周りの人に助けられました。

当事者の方と創作するというのは初めての試みですが、やってみてどうでしたか?

――当事者の方がいるということに、やっぱり緊張はありました。特に主役の子たちはそれが強かったと思います。
当事者の方から話を聞く上で、自分の中で人物像や想像を膨らませて、自分の創る「○○さん」をみんな演じていたと思います。やっていく中で「ここどうですか?」とか色々と聞いている人も多かったです。
当事者の方自身が一緒に出て作品を創る、ということが初めてだったので、今までの演劇作品とは作品への向き合い方が違ったと思います。台本をいただいて、その中で切り詰めていくのではなく、今回はその台本を通して、その方の人生に寄り添わせていただく気持ちに近かったです。

一人の人生を演劇で表現することの意味をどう感じましたか?

――話で聞くよりもその方の人生を近くで見ることができました。話だけ聞いていると重いし、どうしても理解できないこともあると思うんですけど、演劇を通して第三者として、一歩引いてみることができます。私たちは演者だから、第三者だけどその方の一番近くで寄り添えるというのがすごく大きかったです。すごい体験をさせてもらっているんだなということは稽古する度に思っていました。

今回の作品に参加できてよかったことを教えてください。

――普段関われない方と一緒に関わってひとつの作品を創れたというのはすごく嬉しかったです。演劇コースにいると、演劇コースの人以外と関わる機会が少ないんですけど、今回はたんぽぽの方や卒業生の先輩方、劇団の方といった様々な方と一緒に作品を創れたので、そういう機会を与えていただけたというのは自分の人生にとっても大きな影響を与える作品になったと思います。

これからの将来にどう活かしていきたいですか。

――今回の作品に参加したことで、将来の選択肢のひとつとして、自分の地元で福祉と演劇を繋げる仕事をするのもいいなと思うようになりました。私の地元は田舎なので、孤独な方や援助が必要な方が多くいます。そういった方たちの対話のきっかけになる機会に演劇がなれるのであれば、そういうことを活かした職業もいいなと思っています。

演劇コースに興味がある方へアドバイスやメッセージがあればお願いします。

――4年間って長いようであっという間です。私も4年生になって、あれもやっておけばよかった!と思うことがあって、少なからず後悔もあります。だから、少しでも興味があるならまずは挑戦してみてください。いつかその経験が役に立つ日がくるので、やりたいと思うことを恥ずかしがらずに、やりたいことをやっていってほしいと思います。


四国学院大学社会学部プロジェクト演劇公演『ダンデライオンズ』(ノトススタジオHP/イベントレポート)

※1  「NPO法人SAJA就労継続支援B型事業所たんぽぽ」とは
前身は、1990年に精神障害者家族、支援者、市民等の協働によって開設された精神障害者共同作業所「たんぽぽ」。その後、移転や制度改変による存続の危機を乗り越えて、2006年にNPO法人化。2008年から就労継続支援B型事業所として利用者の生活支援、就労支援ならびに地域福祉活動を展開。駄菓子屋店舗運営、施設外就労、クッキーの製造販売、手芸品の制作等の他、クラブハウスや地域交流活動、研修会の開催、当事者研究ミーティング等を実施。「誰もが人生の主人公」をモットーに活動中。

※2 「社会福祉と演劇ワークショップ」
2021年度より新設された演劇ワークショップ実践マイナーの授業のひとつ。
演劇を活用したワークショップを体験し、深く考察し、その効果・方法について体系的、実践的に学んでいます。