『インクルーシブ教育について考えること』(マグノリア・カフェ)

文学部 学校教育メジャー 坂東拓海さん
丸亀高校出身。
中学校教諭一種免許状(社会)の取得を目指している坂東さんは、現在マグノリア・カフェ「ポストモダン学校カフェ」で活動中。
「ポストモダン学校カフェ」では、ワークショップで現職の学校関係者と学ぶほか、読書会や講座などを開いて対話を行い、教員やSSW(スクールソーシャルワーカー)がどのように子どもに伴走するのか、そのような伴走のために教員やSSWなどの大人間ではどのようなコミュニケーションが必要なのか、という問いを探究しています。
この活動の中で、坂東さんはどのような体験をし、どのような学びを得たのでしょうか。
マグノリア・カフェ「ポストモダン学校カフェ」をはじめたきっかけを教えてください。
僕は、中学時代の先生に地理の本を勧めてもらったことがきっかけで地理に興味を持ち、中学校社会科の教員を目指しています。また、少しでも自分が教員として本を読むきっかけになれたと思い、学校図書館司書教諭の資格取得も目指しています。
学校教育メジャーの授業で、2022年に国連から日本は特別支援教育として分離した学校教育を中止して、インクルーシブな学校教育を進めていくよう勧告を受けたことを知りました。そんな時、マグノリア・カフェの主宰である文学部の森川先生に声をかけていただきました。
インクルーシブな学校教育を実現するためには、どういった活動をしていかなければいけないのか。今ある学校の課題を解決するためにはどうすればいいのか。そういったことを考える重要な機会になると思い、「ポストモダン学校カフェ」の活動に参加しました。
マグノリア・カフェ「ポストモダン学校カフェ」ではどんなことをしていますか。

教育社会学を専門分野とする文学部の森川先生とスクールソーシャルワークを専門分野とする社会福祉学部の浜田先生指導のもと、インクルーシブ教育に関係する映画を観たり、本を読んだりして、メンバーと意見交換をしています。また、ドキュメンタリー映画「みんなの学校」の舞台となった大阪市立大空小学校の元校長木村泰子先生(※1)と元教諭の塚根洋子先生をお招きして、学校教員やスクールソーシャルワーカー、心理職といった様々な方が参加するワークショップもありました。ワークショップでは、それぞれの学校現場で起きている問題や課題についての話を聞いて、過去に自分が体験したことをもとに学生の目線から意見を出し合い、どう対応すればいいのかを参加者みなで話し合いました。学校教育の今の問題点とどうしていけばいいのかを現職の方々と本音で話し合うことができました。単に講義で「こういうことがあるのでこうしましょう」というのではなく、実際に体験できるような感覚があって、すごく身になりました。
※1 木村泰子先生との活動について
本学では、木村泰子先生をお招きした2016年本学学術講演会を契機に、地域の学校関係者とともにワークショップを毎年開催し、インクルーシブな学校教育について学ぶ機会を設けています。
現職の方とのワークショップで印象に残っていることは何ですか?
よく学校の現場で起こることとして、例えばトイレを我慢している子がいた時に「先生、トイレに行ってもいいですか?」と聞かれた時になんと答えますか?という問いがありました。僕が実際に先生役としてやってみたのですが、「トイレに行っていいですか?」と聞かれたら自然と「はい、どうぞ」と答えていました。でも、元々子どものトイレに関して教員は許可する立場ではないのに、何故そういう状況が生まれてしまうのか、目上の人が許可を出す支配的な状況があることについて違和感を覚えないのはおかしい、という話があり、ハッと気づかされました。よくよく考えてみればおかしいはずなのに、自分もトイレを我慢していた時には先生に許可をとっていましたし、実際に教員になった時に聞かれたら同じように言うだろうなと。ワークショップでは、そういう雰囲気を作らないためには、どういう対応をしなければならないのか、どういう声掛けをしていかなければならないのか、ということを考えました。
このテーマは、根本から意識を変えられたというか、自分の常識が崩れたので、とても印象に残っています。
マグノリア・カフェ「ポストモダン学校カフェ」の活動をしていてよかったことは何ですか。

現場の方の生の声が聞けるのも学びを深める機会になりますし、映画からも多くの学びがあります。例えば、障害のある方の心の傷がどういうものなのかを障害のある方の視点から見ることはなかなかできないので、そういう機会を得られることは自分の価値観や考え方を広げてくれています。
それに、ワークショップでのトイレの話をはじめとして、自分が常識だと思っていることがよくよく考えると違うという気づきを得て、当たり前だと思っていることを「本当にそうかな?」と考えるようになりました。教科指導法などの授業では、模擬授業をしたり学習指導案を作成したりするんですけど、その時にもし大きい文字でないと読めない子がいた場合はどう対応しようか、ということにも意識を向けるようになりました。
「多角的・多面的にみる」というのは言葉ではよく聞きますが、実際にやろうと思うととても難しいことです。活動の中でいろんな人の声を聞いて、知って、少しでも分かろうとするきっかけを持つのは大切だなと思っています。
マグノリア・カフェ「ポストモダン学校カフェ」の問いに対して、自分なりにどう考えていますか。
インクルーシブ教育について知識としてはあっても、学校の中でどういうことをしていけばいいのか考えた時、授業で学習指導要領に沿って子ども一人一人に教員が対応していくのは限界があります。単に一人の教員が活動するのではなく、スクールソーシャルワーカーやいろんな専門職の方たちとコミュニケーションをとりながら、チーム学校として支援していくことが求められます。
教員の残業時間が増えていて大変だという話も聞くのですが、大人がコミュニケーションをとれていなかったら、子どもとのコミュニケーションにも活かせないと思うので、チームとしてコミュニケーションをとって支えていくというのがまずは大事なのかなと思います。労働環境など課題は山積みですが、そういったことをひとつずつクリアしていくことで、インクルーシブな学びというのが実現するのだと思いたいです。
だから僕も、将来は他の専門職の方たちとコミュニケーションをとって、子ども一人一人をみんなで支えていけるような教員になりたいです。
教員免許取得に向けて、どのように学びを深めていますか?
学校教育メジャー以外のメジャーから専門科目を学ぶことで、より深く学べていると思います。
たとえば、歴史学・地理学メジャーの「近・現代史資料を読む」という授業では、新聞記事の見方を学びました。新聞記事に書かれている事実が別の資料から読むと全然違っていて、何故そういう記事になったのか、何故そうしなければいけなかったのか、ということが様々な資料から見えてきます。
さすがにその裏側に隠された事実までを中学校の授業で取り上げることはないかもしれませんが、自分が知っていればこういう背景があるからこういう記事になったと生徒に話すきっかけになると思います。
本学に興味がある高校生へ向けてメッセージがあればお願いします。
この大学は、他のメジャーの学びも自由に選ぶことができるので、興味を持って授業を受けてみることで、思わぬ視点や新しい価値観に出会うことができます。ただ単に教員資格取得の勉強だけでなく、講義でも興味がある分野があれば履修したり、「ポストモダン学校カフェ」のようなマグノリア・カフェの活動に参加してみたり、いろんな経験をしていってほしいなと思います。
そういう経験は、将来への大きな糧になると思うので、チャレンジする勇気を出して一歩を踏み出してほしいです。