文化芸術推進事業2019

2021 年度 大学における文化芸術推進事業

地域の課題に向き合う社会包摂型劇場を創り、運営していくためのアートマネジメント人材育成プログラム
大学と連携する丸亀市の新市民会館「(仮称)みんなの劇場」開館準備プロジェクト2021

 

「課題リサーチ・プロジェクト」では、福祉施設、病院、矯正施設でのヒアリングを通して、地域課題を把握し、それらに対する文化芸術からのアプローチについて考察。各施設に特化したワークショップの研究と開発を行いました。
「アウトリーチ・プロジェクト」では、課題リサーチ・プロジェクトで得た知識や考察をもとに、地域課題解決のためのワークショップを、矯正施設・福祉施設4ヶ所で行いました。また、小児病棟では、入院中の子どもたちにも文化芸術を楽しんでもらうべく、院内テレビで放映できる映像作品を制作しました。その他、こども園での幼児向け演劇作品の上演や、劇場以外での小作品の上演についての企画など、様々な角度からアウトリーチ事業を実施しました。
活動報告はこちら。
「シアター・プロジェクト」では、本学ノトススタジオに、プロの劇団2団体を招致。受講生とボランティアスタッフは本学教員指導のもと、演劇公演2本の運営に関わり、劇団の受入れ、広報、公演当日運営の知識・スキルを身につけました。その他、美術・照明などのスタッフ業について、プロの舞台監督や照明オペレーターから学びました。活動報告はこちら。
「評価・プロジェクト」では、本事業が地域の福祉施設や医療現場等のニーズに沿えるよう、当事者間で話し合いを繰り返し、人材育成プログラムのブラッシュアップを図りました。また、本事業が社会の課題解決にどのような影響を与えているのかを検証し、その検証結果をいかに市民へ伝えるかについて話し合いました。
活動報告はこちら。

◎共催団体からのお声

劇場の基本理念の一つである「誰一人孤立させない」社会を実現するために、文化芸術とりわけ、パフォーミングアーツは「人と人のつながりを創る」ための重要なコンテンツです。文化芸術の社会的価値を広く活用し、市民生活の中に溶け込ませるのが、我々の使命です。今年度まで3年間の事業を通し、表現活動を通した児童の非認知スキルの獲得、認知症予防は、従前とは異なるアプローチでそれぞれの事業への効果が理解され、今後も幅広い活用を望む声が寄せられています。また、女子少年院での取り組みは、院内での継続的な活用が期待されるとともに、再犯防止に向けた行政や大学、市民活動団体の役割分担やビジョン共有が必要なことも明らかになしました。今後も大学との連携を深め、具体的な事業を実施しながら、開館後の望ましい協働の在り方を模索していきたいと思います。
( 丸亀市産業文化部文化課市民会館建設準備室長  村尾剛志)

課題リサーチ・プロジェクト / アウトリーチ・プロジェクト活動報告(2021年度 大学における文化芸術推進事業)

◆四国こどもとおとなの医療センター
『院内テレビ版 映像作品 さる・くる・さる』

2 0 2 1 年6 月~ 2 0 2 2 年2 月
講師: 阪本麻郁( 四国学院大学准教授)
対象: 医療センター関係者

善通寺市にある四国こどもとおとなの医療センターは、病院内にアートを共存させるホスピタルアートに取り組まれている病院で、地理的にも四国学院大学から車で5分、歩いても20分という近しい関係です。そんな病院との共同プロジェクトとして院内テレビ版『さる・くる・さる』を製作しました。

6月から、病院でアートデイレクターを務められている森合音さんと丸亀市文化課職員とでミーティングを行い、入院されているこどもたちやおとなの方に何か寄り添える様なプロジェクトが出来ないか検討しました。ロナ感染予防の為病室には入れませんので、院内で入院患者さんが鑑賞されている院内テレビ『ホスチューブ』で放送出来る映像作品を作るというアイデアを、ミーティングを重ねることで発見することが出来ました。上演する作品は、昨年度丸亀市の保育園・幼稚園で上演し好評を得た音楽劇『さる・くる・さる』。お猿さんと女の子が出会い、ひと時を共に過ごし、別れるというお話なのですが、院内テレビ版『さる・くる・さる』ではお猿さんが病院にやって来るという設定で、院内で撮影を行いました。撮影に入る前に、入院中のこどもたちに病院内での生活についてインタビューしたところ「お風呂が怖い!」という声があったので、お猿さんがお風呂に入っているシーンも作品に盛り込むことになりました。

また、病院内には屋上庭園をはじめ色んなホスピタルアートがあり、それらの作品や森さんや職員さんからインタビューしたお話も作品に盛り込まれていきました。
さらに作品には横田医院長を始め、医療や事務に携わっておられる多くの方々が好奇心を持って出演して下さり、この病院でしか作れない作品となりました。普段は別々にお仕事されているという事ですが、このプロジェクトを通して非日常的な体験を共有して頂けたのではないかと思います。この作品が院内テレビで鑑賞される入院中の方々にとって勇気と励ましになれば幸いです。今回のプロジェクトを通して、劇場外での芸術作品の上演や放映の可能性を実感することができました。今後、劇場へ実際に足を運べない方にも、本学や新市民会館で上演される作品をお届けしていきたいと考えています。

 

◆飯野コミュニティセンター、岡田コミュニティセンター
『にじいろカフェでの即興演劇ショーイング』
2 0 2 1 年1 1 月1 9 日、2 0 2 2 年1 月8 日
講師: 仙石桂子(四国学院大学准教授)
対象: にじいろカフェ参加者( 計1 2 名)

にじいろカフェとは、認知症に関心のある人、認知症が気になる人、認知症の人と家族、専門職の人などさまざまな人が出会い、おしゃべりや情報交換をする場所です。事前に、にじいろカフェを運営しているアーチ株式会社の代表取締役藤川憲太郎氏、社会福祉法人厚仁会珠光園の園長藤井満美氏に、にじいろカフェの活動についてお話を伺いました。「今後新しい人が入りやすい場づくりや世代間交流ができればよい」、「参加者に、普段なかなか味わうことのできない特別感を味わってもらいたい」などのお声を受け、後日にじいろカフェの見学をさせていただき、開催内容を検討しました。参加者にとって、即興演劇に参加することは、ハードルが高い可能性があることから、まず、簡単なワークショップを楽しんでもらい、その後即興演劇のシーンを観てもらうことにしました。

当日、拍手まわしのアイスブレイクで緊張をほぐし、その後、グループに分かれて簡単なお話づくりのフォーマットで、10~20代の学生やアシスタントと一緒にお話を作ってもらいました。時代劇設定や、誰かの成功物語にしたいなど、参加者の方から色々なアイデアが出て、グループごとに発表する際には笑い声が聞こえ、終始和やかな雰囲気で行われました。誰かと一緒に何かを創作して発表するという、少しだけ非日常的な時間を過ごしていただけたのではないでしょうか。即興演劇ショーイングでは、学生と劇団員が、参加者からお題をいただき、地域を題材にしたシーンを披露しました。ショーイングの後、参加者から丸亀市の地域の話を聞くことができ、県外出身の学生やアシスタントにとって、地域を知る機会にもなり、多世代の交流という意味でも意義のある場になったと考えています。

◆丸亀少女の家
『即興演劇を取り入れたソーシャルスキルトレーニング』

2 0 2 1 年4 月~ 2 0 2 2 年1 月( 計1 0 回)
講師:仙石桂子( 四国学院大学准教授)
対象: 丸亀少女の家在院者、法務教官( 累計6 0 名)   

元々丸亀少女の家で行っているソーシャルスキルトレーニング(以下、SSTという。)のロールプレイに、2020年度より本学社会学部准教授の仙石桂子がスーパーバイザーとして入り、出院後の危機場面の再現性を高めるために、演劇教育を受けた経験のあるものが少女たちの相手役として参加しはじめました。2020年度は、「職場関係」「交友関係」「家族関係」の順番でトレーニングを実施。職場から家族へ、より身近でよりハードルの高い関係へと移行するよう行うことにより、学びの深まりを味わえるようにしました。2021年度は、「関係性」をまず決めるのではなく、依頼・断るなどの「行動」を先に定め、SSTを受ける前に、必ず少女らに自ら、出院後乗り越えないといけない課題(相手や場面)をまとめてもらい、そのテーマに沿ってロールプレイの内容を決めるようにしました。これにより、課題に対してどう対処するかを参加者全員で意見を出し合う時間や、ロールプレイを行う時間も増えました。また、丸亀市文化課職員がロールプレイの様子を記録したフィールドノーツや、インタビュー調査の記録を参考に、スーパーバイザー・俳優と振り返りを行うことで、次回に向けて改善点を見出し、プログラムの内容をより深いものにすることができました。本事業は、今年度で終了しますが、今後も仙石と丸亀少女の家とで研究を続けていくとともに、新市民会館の開館に向けて、再犯が起こりにくい地域づくりや、少女たちの出院後の新しいコミュニティーの創出につなげていきたいと思います。

◆街中リサーチ&街中での小作品上演
『街中を劇場に!? 丸亀の街を歩いてみよう』『驟雨・ひとりとふたり芝居』

2 0 2 1 年4 月~ 2 0 2 2 年1 月( 計1 0 回)
講師:西村和宏( 四国学院大学准教授)
対象: 丸亀市文化課職員、丸亀市文化芸術推進サポーター、学生( 計1 8 名)


6月、参加者は劇場のアウトリーチの場所として、市民が集えるパフォーマンス作品が発表できる空き店舗やスペースがないかを、参加者それぞれの経験・立場で意見を出し合いながら、商店街を中心に通町、富屋町、南条町、米屋町を散策しました。また、市民開館建設準備室長の村尾剛志氏による、金比羅街道や遍路道、千歳座(旧芝居小屋)、断面マチヤの解説なども行われたほか、和菓子の老舗「寶月堂」の2階、丸亀ビル(旧電電公社)などすぐにでも使用できるレンタルスペースも見学しました。散策を終、本学教員の西村和宏のもとフィードバックを行い、それぞれが街歩きで経験した想いや公演に向けてのアイデアを共有しました。県外から来た若者が面白がる視点、生まれも育ちも近隣の年配者の語る商店街の思い出話など、世代を越えた意見交換が活発に行われました。その後、12月にパフォーマンスを上演する候補場所を下見し、まちの駅として活用されている「秋寅の館」と、誰でも気軽に交流できるスペース「みんながオルデ通町」での上演が決定。「秋寅の館」は明治時代に建設された建物であることから、大正時代の倦怠期の夫婦とその妹を描いた「驟雨」(作・岸田國士)をプロの俳優と創作し、「みんながオルデ通町」は商店街に面した小スペースであるため、気軽に足を運んでもらえるように、本学学生・卒業生が中心となった一人芝居と二人の朗読劇で構成することになりました。
公演内容はこちら

◆丸亀市内の幼稚園・保育所・こども園
幼児向けパフォーマンス『さる・くる・さる』

2 0 2 2 年1 月1 7 日
講師:西村和宏( 四国学院大学准教授)
対象: あやうたこども園園児( 計8 2 名)

 

 

 

 

 

 

本学教員の西村和宏が作、同じく教員の阪本麻郁が振付した本作は、言葉あそびとリズムを中心としたパフォーマンスで、コロナ禍でも幼児の文化芸術鑑賞機会を確保すべく、マスク着用・少人数・PCR検査等感染症対策の実施を徹底し上演に臨みました。県内の感染者の急増などを受けて、予定していた7園での上演がやむなく中止となりましたが、どこでも上演できる作品のため、新市民会館開館後の、演劇を身近に感じてもらえる作品創りのヒントになればと思っています。

◆就労継続支援B型事業所たんぽぽ
「演劇」を中心に遊び合う瞬間

2 0 2 1 年5 月~ 1 2 月( 計4 回)
講師:仙石桂子( 四国学院大学准教授)
対象: 事業所利用者、スタッフ( 累計2 8 名)

たんぽぽでワークショップを始めたきっかけは、当事者研究(精神障害を持ちながら暮らす中で見出した生きづらさ等を持ち寄り、仲間や関係者と一緒にその人に合った“自分の助け方”や理解を見出していこうとする研究)に、仙石が興味を持ち、当事者研究を行っている本学社会福祉学部教授の西谷清美が理事を務める事業所に足を運び始めたことでした。当事者研究を学ぶうちに、その研究が、とても対話的で活動内容が演劇作品の創作と似ていたことから、2019年度より、2か月に1回程度ワークショップをするようになりました。ワークショップ参加者は、毎回、利用者5~6名、スタッフ1名、理事長、ワークショップアシスタント2名(本学演劇コース卒業生)です。ワークショップ開始前に、その日の状況や気分によって、インプロ(即興演劇)かグループワークで作品を作るか、どちらがよいかを参加者に選んでもらいます。ワークショップの中でも人気のある「嘘を見破る」ことをテーマにしたインプロのワークでは、普段、日常生活で「してはいけない」とされていることを、いかに上手にやるかを、参加者が演じました。普段、参加者と接しているスタッフからは、演じている参加者の斬新なアイデアに感心し、嘘が上手でなかなか見破れないなどの意見がありました。また、アイデアをクリエイティビティに」をモットーに毎回行っていますが、事業所でのレクリエーションの取り組みとして、参加者が自分の個性を表現できる場をどのように創っていけばよいかを学ぶ機会にもなりました。
3年程ワークショップをやってみて、利用者さんとの信頼関係もできてきた中、創作の場、発表の場をもっと設けることで、多様・柔軟性を知る新たな学びの機会になるのではないかと考えています。2022年に入って、これまでやってきたインプロのゲームから、シーンづくりにチャレンジしました。2022年度には、一つの作品を創作することにチャレンジする予定です。

シアター・プロジェクト活動報告 (2021年度 大学における文化芸術推進事業)

◆『東京ノート』
2 0 2 1 年1 0 月1 5 日~ 1 7 日
講師: 西村和宏(四国学院大学准教授)
場所: ノトススタジオ
対象: 丸亀市文化課職員、学生ボランティア(計1 5 名)

◆『BEACH CYCLE DELAY』
2 0 2 1 年1 0 月3 0 日・3 1 日
講師: 西村和宏(四国学院大学准教授)
場所: ノトススタジオ
対象: 丸亀市文化課職員、学生ボランティア(計1 5 名)

舞台芸術を観る人・やる人(実演家)・支える人を育てる「シアター・プロジェクト」。今年度も国際共同企画を2本上演する予定でしたが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、やむなく演目を変更することになりました。受講生とボランティアスタッフは本学教員指導のもと、演劇公演2本の運営に関わりました。予算管理、チラシの折り込み・DM発送、SNS管理などの広報、劇団の受入れ、当日運営の知識・スキルを身につけました。特に、『東京ノート』は出演者20名の受入れとなり、宿から劇場までの移動やケータリングの手配、コロナ禍での公演ということもあり、楽屋・舞台のコロナ対策などに気をつけながら進めていきました。その他、舞台・客席、照明・音響の仕込みを手伝い、プロの舞台監督やオペレーターから、作業工程やスケジュール調整について学びました。『BEACH CYCLE DELAY』では、ロビーに「apart」という映像作品と、「tsugime」と題したtrippenのシューズの展示も行い、来場者に劇場外でも楽しんでもらうことができました。今後の芸術性の高い現代演劇公演の企画に向けて、役立つ実務スキルの習得につながりました。

評価・プロジェクト / 活動報告 ・座談会(2021年度 大学における文化芸術推進事業)

これまで、丸亀市産業文化部文化課と共同で、劇場がどのように社会に貢献できるか、地域課題に対する文化芸術からのアプローチについて検討・実践してきました。これらの3年間の活動を振り返り、アウトリーチ事業の在り方やそれを継続していくにはどうすればよいか、本プログラムに関わって下さった方々で意見交換を行いました。また、本学社会福祉学部教授の西谷清美から、社会福祉の専門家からみた文化芸術について話を聞き、新市民会館の開館までに、今後何が必要なのかについて話し合いました。社会福祉における文化芸術活動は、“ケア・治療”ではなく、“市民としての活動”であり、地域の方々との交流を通じて、仲間を作り、地域を豊かにしていくことではないかとの意見を聞くことができました。また、新市民会館はすべての市民に劇場の恩恵を届けるという社会包摂型劇場を目指していますが、そのためには、“多様な市民”が主体的に関わることができるプラットフォームの構築が必要であり、市民が交流する過程を市民が共有できるような仕組みづくりが重要なのではないかなど、活発な意見交換が行われました。

2020 年度 大学における文化芸術推進事業

地域の課題に向き合う社会包摂型劇場を創り、運営していくためのアートマネジメント人材育成プログラム
大学と連携する丸亀市の新市民会館「(仮称)みんなの劇場」開館準備プロジェクト2020

「課題リサーチ・プロジェクト」では、昨年度から引き続き矯正施設、福祉施設、教育現場で、さらなる課題の掘り起こしとそれらの課題に対する文化芸術からのアプローチについて本学教員と専門家、丸亀市文化課職員が考察しました。活動報告はこちら。
「アウトリーチ・プロジェクト」では、課題リサーチ・プロジェクトで得た知識や考察をもとに地域課題解決のためのワークショップを、矯正施設、福祉施設などで行いました。また、保育所・幼稚園計11か所で、幼児向け演劇作品の上演も行い、様々な角度からアウトリーチ事業を実施しました。活動報告はこちら。
「シアター・プロジェクト」では、ノトススタジオにプロの劇団を2 団体招致。演劇公演の運営や、美術・照明などのスタッフ業について学びました。また、劇団の制作者から、国際共同企画に関する制作業務についてのレクチャーを開講し、より実践的で地域性・国際性を備えた人材育成プログラムを実施しました。活動報告はこちら。
「評価・プロジェクト」では、本事業が社会の課題解決にどのような影響を与えているのかを検証。地域の福祉施設や教育現場のニーズに沿え合いを繰り返し行いました。また、年度末には「活動報告会」を開催し、客観的・専門的な視点からフィードバックの機会を設け、最終年度に向けて人材育成プログラムのブラッシュアップを図りました。活動報告はこちら。

◎共催団体からのお声
今年度は、行政と大学だけでなく、社会課題の解決に取り組む NPO 法人 や女子少年院と協働することで、産学官が連携して社会課題解決に取り 組んでいくための基礎を作ることができました。それぞれの強みを生か し協働することの効果は大きいと実感しました。今後は、将来的なビジョンをより具体的に見据えながら、持続可能な協働の形を模索していきたいと思っています。(丸亀市産業文化部文化課)

課題リサーチ・プロジェクト活動報告(2020年度 大学における文化芸術推進事業)

昨年度から引き続き矯正施設、福祉施設、教育現場で、さらなる課題の掘り起こしとそれらの課題に対する文化芸術からのアプローチについて本学教員と専門家、丸亀市文化課職員が考察しました。また丸亀市は、課題とニーズ把握のためのアンケート調査や、福祉施設・医療機関・コミュニティなどと「車座集会」で意見交換を行っており、そこから得た情報をもとに、今年度は新たに、障がいをもつ利用者の生活と労働を支援する福祉事業所にもヒアリングを行いました。ヒアリングで得られた結果を基に、本学教員らが丸亀市の各施設に特化したワークショップの研究と開発を行いました。

◆丸亀少女の家
ファシリテーター:仙石桂子(四国学院大学准教授) 2020 年7 月~12 月
昨年度は、施設職員に向けて即興演劇ワークショップを実施しました。これにより、演劇を通じた表現教育・コミュニケーション教育の可能性を感じていただきましたので、在院している少女たちの課題の解決に役立てられないかと、施設職員と、即興演劇の要素をどのような形で矯正教育に取り入れればよいかについて話し合いました。
【どんな課題?】
在院している少女たちは、複雑な家庭環境や、問題に対して適切な対処方法を教えてくれるモデルとなる人の不在などにより、 適切な社会的スキルを獲得しにくい状況のまま少女の家に収容されている場合が多いそうで、少女の家でのプログラムを終え、社会に出た後の対人関係(家族・職場・交友)をいかに構築するかが課題です。
【どうアプローチする?】
少女の家では、もともと出院後の危機場面を想定した社会適応訓練(ソーシャルスキルトレーニング)を実施していましたが、このロールプレイに大学で演劇教育を受けた経験のある者が介入し、少女たちとともに取り組めば、より現実社会に近い形での実践ができるのではないかと考えました。ロールプレイの設定を、少女たちのニーズに沿ったものとし、より詳しく対処方法について学んでもらうことを目標に、ファシリテーターと施設職員が何度も打合せを重ねました。
◆特定非営利活動法人 SAJA 就労継続支援B型 たんぽぽ
ファシリテーター:仙石桂子(四国学院大学准教授) 2020 年7 月~12 月特定非営利活動法人 SAJA は、障がいをもつ利用者の生活と労働を支援し、地域において利用者自らが描く安心できる生活の確立と維持を支援するNPO 法人です。メンバー(利用者)さんとスタッフ(福祉施設従事者)さん、理事⾧である本学社会福祉学部教授の西谷清美氏と一緒に「物語を作って遊ぶ」というイメージで即興演劇のワークショップを行うことにしました。まずは 物語を作るところから始め、その後、それを自分たちで演じてみることにしました。
【どんな課題?】
精神障がいがある事業所利用者は、幻覚や妄想について語ることは良くないことだと思ってしまう人が多いそうです。自身からで てくる幻覚・妄想をクリエイティビティとして捉え、他者と共有できる場を創りたいと思っています。
【どうアプローチする?】
即興演劇の “頑張らない”、“弱さを認める”、“ユーモアを大切にする” という要素を取り入れ、幻覚・妄想について、語り合う場 を作ります。幻覚や妄想をもとに、一人ひとり違うキャラクターを創り上げ、ひとつのストーリーに仕上げていきます。それらのワークを通して、のびのびと語ったり、演劇のワクワク感を体感してもらいます。

アウトリーチ・プロジェクト活動報告(2020年度 大学における文化芸術推進事業)

◆即興演劇を取り入れたソーシャルスキルトレーニング
2020.8~2021.1(計6 回)
講師: 仙石桂子(四国学院大学准教授)
場所: 丸亀少女の家
対象: 丸亀少女の家在院者(参加者6名)

普段、丸亀少女の家で行っているソーシャルスキルトレーニングでは、少女の家でのプログムを終え、社会に出た後に起こりうる対人関係(家族・職場・交友)の危機場面を想定し、在院者同士もしくは職員が入ってロールプレイを行い、内容について振り返っています。現実社会の危機場面で咄嗟のアクションを取らないといけない状況に、即興演劇の手法が効果的であることから、ロールプレイに演劇教育を受けた経験がある本学の卒業生が参加し、より現実社会に近い形で行いました。
第1回目は、交友関係における危機場面を、「出院後、ショッピングモールで以前交友のあった不良少年にばったり出くわす」という設定にし、在院者同士でロールプレイした後、在院者と演劇経験者で演じました。演劇経験者が介入したパターンでは、在院者が想定していないことに対して即興で対応する場面が見られ、在院者たちの想像力・表現力を向上させるきっかけとなりました。職員たちも、普段ロールプレイしているのとは違い、よりリアルな言葉(セリフ)や表情、態度など演じ方について体感することができました。即興演劇を取り入れたトレーニングを福祉施設で実施することで、福祉施設従事者に、表現教育・コミュニケーション教育の有用性を体験してもらうことができました。また、丸亀市文化課職員は、演劇関係者が介入したロールプレイがもたらす成果を見出すために、フィールドノーツを書き、ロールプレイ後、本学教員らと振り返りを行いました。全トレーニングを終えた後には、参加してくれた在院者と職員にインタビュー調査を行い、本学社会福祉学部助教の北川裕美子氏の協力を得て、即興演劇をソーシャルスキルトレーニングに取り入れることで得られた結果について分析を行います。これらを通して、丸亀市文化課職員は、社会的価値を可視化するデータを収集することができ、今後、劇場の社会包摂機能を説明するエビデンスの獲得につなげることができました。

◎参加者からのお声
対人関係の課題を有する少女たちが多い中、少女たちと年代の近い演劇 経験者にソーシャルスキルトレーニングに参加していただくことで、い つもとは違う空気が生まれ、社会に帰ってからの生活がより想像しやすいものになったと思います。また、ロールプレイ後のフィードバックにおいて、一般の方の視点から良いところや改善点を言っていただくことで、どのような対応が望ましいのかを多角的に考えられるようになったように感じます。御協力いただき、ありがとうございました。

◆「演劇」を中心に遊び合う瞬間
2020.11~2021.3(計3回)
講師: 仙石桂子(四国学院大学准教授)
場所: 特定非営利活動法人S A J A就労継続支援B型たんぽぽ
対象: 事業所利用者(参加者6名)

物語をみんなで作って遊び合うワークショップ。アイスブレイクで緊張をほぐした後、参加者それぞれに「なりたい役」を考えてもらいました。

チームに分かれて、その「役」がどんな性格や年齢で、仕事は何なのか、また、その登場人物たちがどんな関係なのかを想像し、模造紙に書き込んでいきました。書いている瞬間は、笑いあり、うーんと悩む場面ありと、各チーム苦戦するところや、盛り上がるところもそれぞれ異なりました。「市⾧」「総理大臣」「ロシアの美女」「ベテラン女優」など自分の頭の中の様々な役を、他の参加者たちと共有しながら、チームで物語を作っていきました。

自分ではない「なりたい役」で、他の人と瞬間的にコミュニケーションをとり、チームの中で対話をしながら、「演劇」を中心に遊び合いました。その後、それを元に演劇にして発表しました。リハーサル時間もあり、構成もきちんと何度も練習できるチームも、話がぎりぎりで決まり、即興で演じるチームもあり、「遊び合い」は発表の際にも「演じる側」「見る側」ともに興味深いものとなりました。そして最後には振り返りを行い、お互いの感想を共有しました。ワークショップ後に福祉施設従事者にインタビューを行った際には、普段のメンバーさんと異なる一面が出てきたこと、自分自身の「演じてみる」ことの可能性について話してくれました。

◆子ども向け演劇『さる・くる・さる』
2021.1~2021.2(計11回)
講師: 西村和宏・阪本麻郁(四国学院大学准教授)
場所: 丸亀市内の保育所・幼稚園1 1 カ所
対象: 園児(参加者0~5歳児約8 0 0名)

コロナ禍で様々な体験や学びの機会が失われた保育所・幼稚園の子どもたちのために、本学教員で演出家の西村和宏と振付家の阪本麻郁が共同でオリジナルのパフォーマンス作品を創作。出演者はマスク着用で2名のみ、子どもたちとの接触なしなど感染症対策をしっかり行った上で、丸亀市の保育所・幼稚園11カ所で上演しました。観劇前の準備としてダンスのワークショップを阪本が担当し、その後にパフォーマンスを上演。

オリジナルの楽曲に合わせて、女の子の言葉遊びとおさるがコミカルに動く本作は子どもたちに大好評でした。

上演後、子どもたちからは、「おさるが寝たところが面白かった」「女の子が可愛かった」「音楽が良かった」「明日も来て!」などの声が上がり、園⾧先生からも「子どもたちへの言葉や体への興味が深まる」「来年度も来て欲しい」「大人も楽しめた!」など嬉しい言葉をたくさんいただき、改めて幼児教育における舞台芸術の必要性を実感しました。

シアター・プロジェクト活動報告 (2020年度 大学における文化芸術推進事業)

マームとジプシー公演  『てんとてんを、むすぶせん。からなる、立体。そのなかに、つまっている、いくつもの。
ことなった、世界。および、ひかりについて。』

2021.9/26、9/27
講師: 西村和宏(四国学院大学准教授)
場所: ノトススタジオ、ミーティングルーム
対象: 丸亀市文化課職員、大学生(参加者9 名)
マームとジプシー公演
ノトススタジオで上演されるマームとジプシーの公演運営に、丸亀市文化課職員が参画。今年度は、国際共同企画を予定していましたが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け、イタリア人俳優の来日の見通しが立たず、やむを得ず演目を変更することになりました。本学教員の指導のもと、公演5か月前より、上演に関する渉外、宿泊・移動の手配などの演劇公演についての制作実務に携わりました。その他、仕込み・当日公演・バラシ作業に関するスケジュール調整について担当者間で打合せを重ね、当日は劇場での受付を担当し、開演までの流れについて学びました。

また、マームとジプシー制作の林氏による、国際共同企画に関する制作業務についてのレクチャーを開催。当初上演を予定していた、国際共同企画『IL MIO TE MPO -わたしの時間-』のイタリアでの経験について話を聞くことができました。

国の違う俳優が集まる場合の企画に関する工夫や、俳優・スタッフが平等に作品創りに携わる重要性について学びました。また、より多くの、かつ多様な客層に演劇を楽しんでもらうために、演劇以外のアーティストとのコラボレーション企画や集客方法についても聞くことができました。

青年団公演『眠れない夜なんてない』
2021.2/18 ~ 2/20
講師: 西村和宏(四国学院大学准教授)
場所: ノトススタジオ、ミーティングルーム
対象: 丸亀市文化課職員、大学生(参加者2 4 名)


プロの舞台監督や照明オペレーターから作業工程を学びました。本公演は、俳優だけで15名、スタッフも入れると20 名の受け入れとなりました。劇団の受け入れや、当日運営に関して、実際に劇団で実施していることを教えてもらいながら、実践しました。今年度は、コロナ禍の中、演劇公演を行うということで、劇団内で行っているコロナ対策などについても、詳しく聞くことができました。また本学演劇コースの卒業生で青年団制作の太田氏より、制作という仕事について教えてもらいました。現場での声を聞くことで、制作者が担うべき業務について学ぶことができました。公演までにやるべきこと、特に広報・集客について、ホームページ、SNS の効果的な使い方や、情報公開についての劇場と劇団のやりとりについてもポイントを教えていただきました。通常の劇場での制作業務に加え、豊岡演劇祭など、大きなイベントを経験している制作者から、実経験を聞くことができたのは、将来制作者を目指すものにとって大きな収穫となりました。

 

評価・プロジェクト活動報告 (2020年度 大学における文化芸術推進事業)

評価プロジェクトでは、各ワークショップの実施後に、次回の実施に向けて、より参加者のニーズに沿えるよう、打ち合わせを重ね、ブラッシュアップを行いました。また、ワークショップや公演がどのように地域の福祉施設や教育現場に影響を与えたか、ニーズ調査の結果を踏まえながら考察。市民会館の開館に向けて、今回行ったワークショップ・公演や、劇場そのものが社会的にどういう影響を与えるのか、なぜ必要なのかを、市民に対してどのように説明すればよいかを話し合いました。
また、2021 年3月18 日には丸亀市文化振興審議会特別委員でもある特定非営利活動法人iさいと代表理事の井上優氏をファシリテーターとして迎え、「活動報告会」を開催。今年度の活動の振り返りを行いました。報告会には、本学教員と丸亀市文化課職員、受講生が参加し、前半は準備プロジェクトで得た知識や体験の活動報告を行い、評価プロジェクトの検証結果も合わせて参加者へフィードバックしました。
後半は、ワークショップを開催した施設職員が、他の施設で行われた活動を見て、自分たちのところでも取り入れられないか、もしくは応用できないか等を話し合いました。
本学教員と丸亀市文化課職員は、今後、新しい市民会館で、市民に向けたどのようなアウトリーチ事業が必要かについても言及。最後には、次年度以降の、地域・行政・大学間での持続可能な協働の形を探りました。
活動報告会

2019 年度 大学における文化芸術推進事業

地域の課題に向き合う社会包摂型劇場を創り、運営していくためのアートマネジメント人材育成プログラム
大学と連携する丸亀市の新市民会館「(仮称)みんなの劇場」開館準備プロジェクト2019

「課題リサーチ・プロジェクト」では、小学校・保育所などの教育現場や福祉施設にファシリテーターと丸亀市文化課職員が赴き、課題やニーズを丁寧にヒアリングしました。また国内外での先進事例を調査することで、地域の課題の把握・それに対する対応について学ぶことができ、新市民会館のあり方への参考としました。活動報告はこちら。
「アウトリーチ・プロジェクト」では、社会包摂型劇場の開館に向けて市民のアートへの理解を深めるとともに、アートを介したつながりや気付きを生み、自己承認欲求を満たすきっかけ作りを目的に、先鋭的な演劇・ダンスのワークショップを教育現場や福祉施設で実施しました。「課題リサーチ・プロジェクト」で掘り起こした市民の課題・ニーズを解決するためのアウトリーチ事業の重要性を体感することができました。活動報告はこちら。
「シアター・プロジェクト」では、青森を拠点にするプロの劇団を招聘し、公演運営に丸亀市文化課職員・受講生が参画しました。上演に関する制作実務のほか、公演に付随し演劇ワークショップ、アートボランティアの募集を行うことで舞台芸術を観る人・やる人の育成に焦点を当て活動しました。活動報告はこちら。
「評価・プロジェクト」では、上記プロジェクトでの活動全体を振り返るとともに、公演やアウトリーチ事業の社会的価値を可視化し、説明責任を果たせる能力を身につけました。活動報告はこちら。

◎共催団体からのお声(丸亀市産業文化部文化課)
新市民会館開館に向け、行政と大学という異なる分野がお互いの強みを活かしつつ、地域住
民の福祉向上のために協働すべきビジョンを共有できました。地域の課題解決に向けたアプ
ローチや人材育成について相乗効果が得られたと感じています。 また、大学生と地域が関わ
ることによる効果は大きいと実感しました。大学には様々な研究目的を持った方がいるので、
今後は幅広い分野で協働できる方向性を模索していきたいと思っております。

 

課題リサーチ・プロジェクト活動報告(2019 年度 大学における文化芸術推進事業)

◆海外劇場の先進事例調査
イギリス・ドイツにおいて先進的な取組みを行っている中規模劇場(イギリス劇場1 ヶ所、ドイツ劇場3 ヶ所)の視察、対面インタビュー調査を実施しました。

対象:本学教員、丸亀市産業文化部文化課職員(参加者4 名)
開催日:2019 年9 月19 日・20 日・23 日・25 日・27 日

Everyman & Playhouse Theatres | イギリスリバプール
Everyman & Playhouse Theatres はCivic Engagement(市民とのかかわり)をかかげて、作品を創るだけでなく、社会とかかわることに誇りをもち、様々な弱者支援のプログラムを実施しています。劇場オペレーションや資金集めの他、地域の小学校と連携して演劇ワークショップを開発・実施する「ラーニングパートナーシップ」や、俳優・舞台スタッフ・プロデューサーを目指す若者を対象にしたYoung Everyman Playhouse(YEP)の成功事例ついてもお聞きしました。これらの先鋭的な取り組みは、社会的に大きなインパクトを与えており、新市民会館の企画・運営に向けて大きな収穫となりました。
イギリスリバプール
Tanzhaus NRW | ドイツデュッセルドルフ
劇場やスタジオ見学のあと、運営や助成金の仕組み、講座内容など話は多岐にわたり、劇場だけでなく、ヨーロッパやドイツのダンス界の現状、環境問題などの話にも言及しました。劇場やダンスが社会的なかかわりを持つことの意義を実感することができました。
ドイツデュッセルドルフ

Das Theater Erlangen | ドイツエアランゲン
人口11 万人と丸亀市と同規模のエアランゲンで年間に子ども向けも含め6 本の新作を創作し、さらに再演や客演で年間プログラムを組むその充実ぶりに非常に驚きました。学校公演や子ども向けの演劇学校も実施、社会福祉施設と連携し、移民問題や貧困問題にも精力的に取り組む姿勢に劇場運営の理想を見出しました。
ドイツエアランゲン

Theatrehaus Jena | ドイツ イエナ
予算が少ないながらも専属の俳優をかかえ、叩き場や衣装部屋、小道具部屋など充実しており、また、近隣の若者層に愛されている劇場でした。丸亀市と同規模の市でありながら、ここまで充実した取り組みができていることに関心。同じ市にある国民劇場とは、取り組み・客層を棲み分けているのも興味深く、参考になりました。
ドイツ イエナ

◆国内の先進事例調査
特定非営利活動法人スローレーベルの活動内容をヒアリングしました。

講師:多田恵子(特定非営利活動法人スローレーベル)
対象:丸亀市産業文化部文化課職員他(参加者5 名)
開催日:2019 年12 月16 日(場所:丸亀市産業文化部文化課会議室)
テーマ:地域課題に対するアートを取り入れたアプローチについて

スローレーベルは、国内外で活躍するアーティストとともに地域コミュニティーが抱える課題を発掘し、様々な分野の専門家や、市民・企業・行政を巻き込み、マイノリティの視点から社会課題を解 決に導く取り組みをしている団体です。
まず、様々な理由で社会に出ることが難しいと感じている若者や、障がいのある人たちが、どのような悩みや課題を抱えているのか、そして彼らがアート活動に参加するためには何が必要か、どのように環境を整えればよいかについてお聞きしました。
スローレーベル
また、サーカス・アートを、教育やリハビリテーションに活かすことのできるプログラム「ソーシャル サーカス」の取り組みについてお聞きしました。普段、出会う機会が少ない障がいのある人・ない人 が、気軽にソーシャルサーカスに参加してもらい、アートを通じて互いの特徴を理解し、補いながら活動し、支え合い共創することで、地域課題を解決に導くということを学びました。障がいのある当事者・支援する側の負担を軽減するために福祉施設等と連携することの重要性についても話し合い、地域課題の解決に向けたワークショップなどを今後、開発・実施することをイメージ化することができ、有意義な時間となりました。

 

アウトリーチ・プロジェクト活動報告(2019 年度 大学における文化芸術推進事業)

◆演劇ワークショップ ~アンチ大魔王とことばバトル!~
講師:わたなべなおこ(四国学院大学非常勤講師・特定非営利活動法人PAVLIC)
対象:丸亀市立城西小学校5・6 年生(参加者6 クラス計172 名)
開催日:2019 年9 月18・19 日(場所:丸亀市立城西小学校)

◎ワークショップ内容
「何もかもが嫌いだというアンチ大魔王」を俳優の河野悟氏が演じ、児童たちが大魔王に向かって、自分たちの好きなものの魅力や好きな想いを伝えることで大魔王に自分たちの好きなものを好きになってもらいます。
チーム(5~6 人)に分かれ、各チームに「好きな学校行事」「好きな給食」などのお題が出され、チーム全員が共通する好きなものを話し合い、ひとつに絞りこみます。
一人一人が好きな理由を考え、チーム内で共有。自分とほかの人の理由の差異を知り、好きなものの魅力を皆で整理し数枚の「なぜならカード」(好きな理由を書いたカード)を作り、大魔王をどう説得するか作戦を練ります。
実際に大魔王と「なぜならカード」を使い対戦。どの順番で魅力を伝えるか、どういう言い方をすればことばが届くのか、試行錯誤しながらチャレンジします。
アンチ大魔王とことばバトル
◎参加児童の声
・普段話さない人とも話すことができて楽しかったです。
・自分と意見が違う人や自信のない人には、「一緒に頑張ろう」と声をかけて自分の心も相手の心もポカポカになって良い世の中にしたいです。
・世の中には自分と気が合わない人がいるけど、その人たちともしっかり向き合って、無視などはしたらだめだよ、というメッセージを貰いました。

◎ワークショップ実施の効果
普段、興味関心が似ている同士が集まって話をすることが多い児童たち。自分と他者との差異に気づき、たとえ同じものが好きでもその理由にも違いがある、自分と異なる他者を認め、受け入れるきっかけとなりました。


◆クリエイティブ・ダンスを用いた学校ワークショップ ~いのくまさんを踊ろう!~

講師:阪本麻郁(四国学院大学准教授)
対象:丸亀市立飯野小学校2 年生(参加者2 クラス計50 名)、丸亀市立城西小学校3 年生(参加者3 クラス計98 名)
開催日:2019 年10 月4 日(場所:丸亀市立飯野小学校)、10 月7・11・18 日(場所:丸亀市立城西小学校)

◎ワークショップ内容
色や形を観察し、それを動きに展開していく身体表現を体験します。その過程で、多くの可能性や多様性に気づき、想像力や創造力を育みます。また、自由な表現が受け入れられる場の中で他者と作業をすることで、自己肯定感を高め、相手を 尊重する心を育んでいきます。また、体を動かすこと、踊ることの楽しさを味わうことで、心身の健康も促進します。
「アイスブレイク」………輪になり自己紹介や身体を使った簡単なゲームで初めて会う人や場 所に馴染んでもらいます。
「ストレッチ・ウォームアッップ」………けがを防ぎ、思考(自己批判、他者批判)よりも先に動き出せる身体を作ります。

「インプロビゼーション」……… 猪熊弦一郎の作品「猫と住む人」「創造の街」を観察し、創造力を刺激します。

「コンポジション」………作品で気になる絵を選び、個々が気になる線や形を動きにしたものを、クラス全体でつなげることで動きのシークエンスを作り発表します。また、ペアになり二つの動きを協力しながら一つのシークエンスに作り上げ、クラスメイトの前で発表します。
「クールダウン」………輪になり、興奮を鎮めるとともにワークショップを全員で振り返ります。

◎参加児童の声
・「答えはないんだよ。」と阪本先生が言っていたので、自由に、楽しく、素晴らしいと思えるような踊りをしました。
・はじめて友達と協力して、「楽しい!」と思いました。みんなと協力できて心に残る1 日になりました。
・今日やってみて、友達が増えたし、楽しかったです。

◎担任の先生の声
・普段1 人で表現することを渋る児童が、積極的に笑顔で表現する姿が見られ、感動しました。「楽しかった」、「またしたいわ」と自然に友達と話しをしていて、どの子も達成感に満ちた表情をしていました。私自身も、交流のさせ方など、表現の授業で今後使っていきたいことが見つかり、大変勉強になりました。
・絵を体で表現するという、今までしたことのない活動を子どもたちがしていて、新しい物の見方で様々な発想ができていました。自分の知らなかった自分、友達とつながることの楽しさを味わうことのできたワークショップだったと思いました。

◎ワークショップ実施の効果
自身の身体に集中し、一人で考え、一人で動く時間と、ペアになりお互いの意見を一緒にまとめながら共同作業する時間を効果的にとることで、児童の集中力、異なる価値観を認識する力を促すことができました。普段の授業では自ら発言しない児童も、周りの目を気にせず身体表現をできており、担任の先生からは、児童の新たな一面をみることができ、ワークショップで使った手法を授業に取り入れたいという意見をもらえました。
※社会的インパクト評価レポートはこちら


◆演じて看る!? 認知症介護のスキルアップ講座

講師:菅原直樹(四国学院大学非常勤講師・「老いと演劇」OiBokkeShi 主宰)
対象:認知症介護に携わっている方、興味のある方などの一般市民(参加者47 名)
開催日:2019 年9 月10 日(場所:丸亀市飯山南コミュニティセンター、丸亀市生涯学習センター)

◎ワークショップ内容
認知症になると、物忘れや勘違いが増え、時には失敗をしてしまいます。言動を正すのではなく、受け入れることで、介護する人も、される人も今この瞬間を楽しむことができるようになります。
「将軍ゲーム」………将軍役のリーダーの言うとおりに、自分の身体の部位を指す遊びをします。思い通りにできても、できなくても共に楽しむという遊びの価値観を、介護の現場に持ち込む意義を共有します。
「イエス・アンドゲーム」……… 介護者役と認知症の人役に分かれて簡単な演劇を行います。認知症の人の突拍子もない願望に、介護者が話を合わせて「受け入れる」パターンと、否定し「正そうとする」パターンを演じ、2 つの違いについて考えます。

◎参加者の声
・悪いところばかりに目が行きがちだが、物事を忘れても「今を楽しむ」ということを大事にするべきだということに気づけました。
・認知症に関わらず、子どもや周りの人との接し方にも通じるものであり、誰に対しても相手の言動を受け入れることを意識したいです。
・これから自分も認知症になるかもしれない。家族にも知って欲しいし、もっと広がると良いと思いました。

◎ワークショップ実施の効果
介護者など周りの人がどのように関わるかが、認知症の人の感情を大きく左右することを学び、認知症への理解が深まり、楽しく介護するヒントが得られます。またそれにより、介護者、被介護者ともに不安やイライラが解消され、日々の満足度や幸福度が増していきます。また、普段何気なくしている「~するふり」をしてコミュニケーションをとることも「演技」であり、「演劇」をより身近に感じることができます。
※社会的インパクト評価レポートはこちら


◆即興演劇を用いたコミュニケーションワークショップ

講師:仙石桂子(四国学院大学准教授)
対象:丸亀少女の家職員、丸亀市産業文化部文化課職員(参加者7 名)
開催日:2019 年12 月25 日(場所:丸亀少女の家)

◎ワークショップ内容
即興演劇は自分一人では成立せず、相手の話しをきちんと聞き、気持ちや想いを理解し尊重しながら自分の想いを相手に分かりやすく伝えていかなければなりません。即興演劇の手法を用いて、コミュニケーション能力の向上を目指します。また即興演劇においては正解も間違いもなく、全員で一つの作品を作っていくので、安心して自分を表現することができます。
「他己紹介」………ペアになりお互い自己紹介をし合います。相手に対して収集した情報をまとめ、全員の前で相手について紹介します。
「二つの点」……… 二つのチームに分かれ、チームごとにまず目を書いて、一筆ずつ加えていき顔の絵を仕上げていきます。チームの人数分の顔の中から一枚選び、その顔を主人公に据え、ストーリーの設定に基づき、一つのお話を完成させ発表します。

◎参加者の声
・自分の考えだけではなく、他人の気持ちや意思を汲み取りながら一つの作品を作り上げていく過程は、正にコミュニケーションそのものだなと思いました。
・自分一人では絶対にできなかっただろうなという作品ができて、面白かったです。
・周りの人が助けてくれたり、フォローしてくれたりといった安心感の中でできる空間だったのが良かったです。

◎ワークショップ実施の効果
社会に出た後のソーシャルスキルを身につけるために即興演劇の手法を取り入れたワークショップは効果的。考えの異なる他の参加者と1 つの作品を作り上げていく過程を通して、聴く力、伝える力を身につけていきます。将来的には、現実社会で起こりうる場面を人や設定等の要素を入れて実際に演じてみることで、社会に適応 する能力を身につけることにつなげていきたいと考えています。


◆保育所 演劇ワークショップ『白雪姫』(試作)

講師:西村和宏(四国学院大学准教授)
対象:カナン子育てプラザ21/4 歳児クラス(参加者18 名)
開催日:2020 年2 月28 日(場所:カナン子育てプラザ21)

課題リサーチ・プログラムで、丸亀市立飯山北保育所・南保育所の先生方にご協力いただき、生活発表会の練習を見学・現場の声をヒアリングしました。「生活発表会で演劇的な遊びを取り入れているが、専門的な知識や方法が分からないので、芸術を子どもたちの教育にどう結びつければよいのかを知りたい」などのお悩みを伺いました。そこで、ドラマを使って子どもたちが自ら考え、 感じたことを表現して楽しむことができるワークショップを開発することにしました。

◎ワークショップ内容
「あいさつをしよう」………子どもたちが一人ひとり舞台に上がり、舞台上にいる白雪姫に挨拶をします。まずは人前に出て、何かするということに慣れてもらいます。
「かいわする」………白雪姫か、いのししと一人ひとりが舞台上で会話してもらいます。
「えんじる」………子どもたちが継母役や鏡役になり、自らが考えたセリフを舞台上で話してもらいます。
「こびとやくになる」……… 子どもたち全員が小人役 になり、みんなで音楽に合わせて踊ります。全員で何か表現することを体験してもらいます。
「いのししを助ける」……… いのししが間違えて毒リンゴを食べてしまったのでみんなでいのししを助けます。

◎ワークショップ振り返り
子どもたちは衣装・メイクをした白雪姫やいのししに興味を持ち、キャラクターと舞台上でのやりとりを楽しむことができました。人前でしゃべることに慣れていない子も、友達やアシスタントの助けを借りて、言葉(セリフ)をいうことができました。将来的には、みんなと同じセリフではなく、個々が考えたセリフを友達の前でしゃべれるようになり、達成感を得ることで自己肯定感を高めてもらうことが目標です。子どもたちの自由な発想を引き出せるようなゲーム的要素やアイテムを追加し、自分なりの表現をすることに喜びを感じられる段階を踏んだプログラムを用意するなど、ブラッシュアップをしていき、子どもたちの想像力・表現力を磨けるワークショップを創り上げたいと思っています。

 

シアター・プロジェクト活動報告 (2019 年度 大学における文化芸術推進事業)

開催日:2020 年2 月8 日~9 日 (場所:四国学院大学ノトススタジオ)
対象:丸亀市産業文化部文化課職員、大学生(参加者15 名)

◆劇団「渡辺源四郎商店」2 本立て公演
青森を拠点にする劇団「渡辺源四郎商店」を招聘し、2 作品を上演。
プロの劇団の公演運営に参画し、上演に関する渉外、宿泊・ 移動の手配、チラシ作成などの制作実務を実践的に学びました。
『どんとゆけ』 作・演出:畑澤聖悟
どんとゆけ
『だけど涙が出ちゃう』 作・演出:工藤千夏
だけど涙が出ちゃう
◆高校生演劇ワークショップ

講師:畑澤聖悟(四国学院大学非常勤講師)
対象:高校生(参加者21 名)
開催日:2020 年2 月7 日 (場所:四国学院大学ダンススタジオ)

公演に連動して高校生対象に演劇ワークショップを開催。演劇の楽しさを地域の高校生に改めて実感してもらうと同時に、卒業後も演劇というアート活動を続けていきたいと思ってもらうことができました。
高校生演劇ワークショップ""

◆アートボランティア
開催日:2020 年2 月8 日 (場所:四国学院大学ノトススタジオ)
対象:高校生(参加者3 名)
ボランティア参加者は、ロビーや外壁への装飾、配布物へのチラシ等の折り込み作業、劇団側との公演事前ミーティングに参加しました。観客とは違う立場でプロの劇団公演に関わる機会となりました。
アートボランティア

 

評価・プロジェクト活動報告 (2019 年度 大学における文化芸術推進事業)

本プログラムで、実施したワークショップや公演を活動ごとに振り返り、アンケート調査・ニーズ調査の結果を踏まえながら、地域にどのような影響を与えたかについて考察しました。また、市民会館の開館に向けて、市民や企業に対してアートや劇場の必要性を理論的に説明する方法を学びました。

◎社会的インパクト評価について
丸亀市は新市民会館開館に向けて、文化芸術が社会に与える影響を様々な視点から分析することによって、文化芸術活動が生み出す社会的価値を可視化し、検証する「社会的インパクト評価」を取り入れています。本プログラムでも、アウトリーチ事業が社会に対してどんな影響を与えるのかを定性的、定量的に評価し、投資に対する妥当性を検証していくと同時に事業のロジックモデルや効果の見直しも行っています。当プログラムで作成したロジックモデルとそれを基に収集したアンケート結果は下記をご参照下さい。

◎社会的インパクト評価レポート
「クリエイティブ・ダンスを用いた学校ワークショップ ~いのくまさんを踊ろう!~」(PDF)
・ロジックモデル
・事前アンケート、終了時アンケート、事前アンケートと 3 か月後アンケート比較
課題解決ワークショップ<認知症介護のスキルアップ講座>(PDF)
※本評価レポートには、丸亀市文化課市民会館開館準備室 主催事業も含まれています。
・評価プロセス
・評価対象ワークショップ(概要)・(詳細)
・現状把握(市役所職員への事前ヒアリング)
・(菅原直樹氏への事前ヒアリング)
・ロジックモデル
・評価指標(参加中~初期)(中期~最終)
・測定 ・事前アンケートの測定結果①②
・当初想定された課題(事前アンケートより)
・終了時アンケートの測定結果①②
・WS の成果と課題(終了時アンケートより)
・測定結果の事前事後比較①②
・WS 実施前後の変化
・現在の状況①②(事後アンケートより)
・現在の状況(事後アンケート)から想定される課題
・今後に向けた可能性と改善策