2021 年度 大学における文化芸術推進事業

地域の課題に向き合う社会包摂型劇場を創り、運営していくためのアートマネジメント人材育成プログラム
大学と連携する丸亀市の新市民会館「(仮称)みんなの劇場」開館準備プロジェクト2021

 

「課題リサーチ・プロジェクト」では、福祉施設、病院、矯正施設でのヒアリングを通して、地域課題を把握し、それらに対する文化芸術からのアプローチについて考察。各施設に特化したワークショップの研究と開発を行いました。
「アウトリーチ・プロジェクト」では、課題リサーチ・プロジェクトで得た知識や考察をもとに、地域課題解決のためのワークショップを、矯正施設・福祉施設4ヶ所で行いました。また、小児病棟では、入院中の子どもたちにも文化芸術を楽しんでもらうべく、院内テレビで放映できる映像作品を制作しました。その他、こども園での幼児向け演劇作品の上演や、劇場以外での小作品の上演についての企画など、様々な角度からアウトリーチ事業を実施しました。
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「シアター・プロジェクト」では、本学ノトススタジオに、プロの劇団2団体を招致。受講生とボランティアスタッフは本学教員指導のもと、演劇公演2本の運営に関わり、劇団の受入れ、広報、公演当日運営の知識・スキルを身につけました。その他、美術・照明などのスタッフ業について、プロの舞台監督や照明オペレーターから学びました。活動報告はこちら。
「評価・プロジェクト」では、本事業が地域の福祉施設や医療現場等のニーズに沿えるよう、当事者間で話し合いを繰り返し、人材育成プログラムのブラッシュアップを図りました。また、本事業が社会の課題解決にどのような影響を与えているのかを検証し、その検証結果をいかに市民へ伝えるかについて話し合いました。
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◎共催団体からのお声

劇場の基本理念の一つである「誰一人孤立させない」社会を実現するために、文化芸術とりわけ、パフォーミングアーツは「人と人のつながりを創る」ための重要なコンテンツです。文化芸術の社会的価値を広く活用し、市民生活の中に溶け込ませるのが、我々の使命です。今年度まで3年間の事業を通し、表現活動を通した児童の非認知スキルの獲得、認知症予防は、従前とは異なるアプローチでそれぞれの事業への効果が理解され、今後も幅広い活用を望む声が寄せられています。また、女子少年院での取り組みは、院内での継続的な活用が期待されるとともに、再犯防止に向けた行政や大学、市民活動団体の役割分担やビジョン共有が必要なことも明らかになしました。今後も大学との連携を深め、具体的な事業を実施しながら、開館後の望ましい協働の在り方を模索していきたいと思います。
( 丸亀市産業文化部文化課市民会館建設準備室長  村尾剛志)

課題リサーチ・プロジェクト / アウトリーチ・プロジェクト活動報告(2021年度 大学における文化芸術推進事業)

◆四国こどもとおとなの医療センター
『院内テレビ版 映像作品 さる・くる・さる』

2 0 2 1 年6 月~ 2 0 2 2 年2 月
講師: 阪本麻郁( 四国学院大学准教授)
対象: 医療センター関係者

善通寺市にある四国こどもとおとなの医療センターは、病院内にアートを共存させるホスピタルアートに取り組まれている病院で、地理的にも四国学院大学から車で5分、歩いても20分という近しい関係です。そんな病院との共同プロジェクトとして院内テレビ版『さる・くる・さる』を製作しました。

6月から、病院でアートデイレクターを務められている森合音さんと丸亀市文化課職員とでミーティングを行い、入院されているこどもたちやおとなの方に何か寄り添える様なプロジェクトが出来ないか検討しました。ロナ感染予防の為病室には入れませんので、院内で入院患者さんが鑑賞されている院内テレビ『ホスチューブ』で放送出来る映像作品を作るというアイデアを、ミーティングを重ねることで発見することが出来ました。上演する作品は、昨年度丸亀市の保育園・幼稚園で上演し好評を得た音楽劇『さる・くる・さる』。お猿さんと女の子が出会い、ひと時を共に過ごし、別れるというお話なのですが、院内テレビ版『さる・くる・さる』ではお猿さんが病院にやって来るという設定で、院内で撮影を行いました。撮影に入る前に、入院中のこどもたちに病院内での生活についてインタビューしたところ「お風呂が怖い!」という声があったので、お猿さんがお風呂に入っているシーンも作品に盛り込むことになりました。

また、病院内には屋上庭園をはじめ色んなホスピタルアートがあり、それらの作品や森さんや職員さんからインタビューしたお話も作品に盛り込まれていきました。
さらに作品には横田医院長を始め、医療や事務に携わっておられる多くの方々が好奇心を持って出演して下さり、この病院でしか作れない作品となりました。普段は別々にお仕事されているという事ですが、このプロジェクトを通して非日常的な体験を共有して頂けたのではないかと思います。この作品が院内テレビで鑑賞される入院中の方々にとって勇気と励ましになれば幸いです。今回のプロジェクトを通して、劇場外での芸術作品の上演や放映の可能性を実感することができました。今後、劇場へ実際に足を運べない方にも、本学や新市民会館で上演される作品をお届けしていきたいと考えています。

 

◆飯野コミュニティセンター、岡田コミュニティセンター
『にじいろカフェでの即興演劇ショーイング』
2 0 2 1 年1 1 月1 9 日、2 0 2 2 年1 月8 日
講師: 仙石桂子(四国学院大学准教授)
対象: にじいろカフェ参加者( 計1 2 名)

にじいろカフェとは、認知症に関心のある人、認知症が気になる人、認知症の人と家族、専門職の人などさまざまな人が出会い、おしゃべりや情報交換をする場所です。事前に、にじいろカフェを運営しているアーチ株式会社の代表取締役藤川憲太郎氏、社会福祉法人厚仁会珠光園の園長藤井満美氏に、にじいろカフェの活動についてお話を伺いました。「今後新しい人が入りやすい場づくりや世代間交流ができればよい」、「参加者に、普段なかなか味わうことのできない特別感を味わってもらいたい」などのお声を受け、後日にじいろカフェの見学をさせていただき、開催内容を検討しました。参加者にとって、即興演劇に参加することは、ハードルが高い可能性があることから、まず、簡単なワークショップを楽しんでもらい、その後即興演劇のシーンを観てもらうことにしました。

当日、拍手まわしのアイスブレイクで緊張をほぐし、その後、グループに分かれて簡単なお話づくりのフォーマットで、10~20代の学生やアシスタントと一緒にお話を作ってもらいました。時代劇設定や、誰かの成功物語にしたいなど、参加者の方から色々なアイデアが出て、グループごとに発表する際には笑い声が聞こえ、終始和やかな雰囲気で行われました。誰かと一緒に何かを創作して発表するという、少しだけ非日常的な時間を過ごしていただけたのではないでしょうか。即興演劇ショーイングでは、学生と劇団員が、参加者からお題をいただき、地域を題材にしたシーンを披露しました。ショーイングの後、参加者から丸亀市の地域の話を聞くことができ、県外出身の学生やアシスタントにとって、地域を知る機会にもなり、多世代の交流という意味でも意義のある場になったと考えています。

◆丸亀少女の家
『即興演劇を取り入れたソーシャルスキルトレーニング』

2 0 2 1 年4 月~ 2 0 2 2 年1 月( 計1 0 回)
講師:仙石桂子( 四国学院大学准教授)
対象: 丸亀少女の家在院者、法務教官( 累計6 0 名)   

元々丸亀少女の家で行っているソーシャルスキルトレーニング(以下、SSTという。)のロールプレイに、2020年度より本学社会学部准教授の仙石桂子がスーパーバイザーとして入り、出院後の危機場面の再現性を高めるために、演劇教育を受けた経験のあるものが少女たちの相手役として参加しはじめました。2020年度は、「職場関係」「交友関係」「家族関係」の順番でトレーニングを実施。職場から家族へ、より身近でよりハードルの高い関係へと移行するよう行うことにより、学びの深まりを味わえるようにしました。2021年度は、「関係性」をまず決めるのではなく、依頼・断るなどの「行動」を先に定め、SSTを受ける前に、必ず少女らに自ら、出院後乗り越えないといけない課題(相手や場面)をまとめてもらい、そのテーマに沿ってロールプレイの内容を決めるようにしました。これにより、課題に対してどう対処するかを参加者全員で意見を出し合う時間や、ロールプレイを行う時間も増えました。また、丸亀市文化課職員がロールプレイの様子を記録したフィールドノーツや、インタビュー調査の記録を参考に、スーパーバイザー・俳優と振り返りを行うことで、次回に向けて改善点を見出し、プログラムの内容をより深いものにすることができました。本事業は、今年度で終了しますが、今後も仙石と丸亀少女の家とで研究を続けていくとともに、新市民会館の開館に向けて、再犯が起こりにくい地域づくりや、少女たちの出院後の新しいコミュニティーの創出につなげていきたいと思います。

◆街中リサーチ&街中での小作品上演
『街中を劇場に!? 丸亀の街を歩いてみよう』『驟雨・ひとりとふたり芝居』

2 0 2 1 年4 月~ 2 0 2 2 年1 月( 計1 0 回)
講師:西村和宏( 四国学院大学准教授)
対象: 丸亀市文化課職員、丸亀市文化芸術推進サポーター、学生( 計1 8 名)


6月、参加者は劇場のアウトリーチの場所として、市民が集えるパフォーマンス作品が発表できる空き店舗やスペースがないかを、参加者それぞれの経験・立場で意見を出し合いながら、商店街を中心に通町、富屋町、南条町、米屋町を散策しました。また、市民開館建設準備室長の村尾剛志氏による、金比羅街道や遍路道、千歳座(旧芝居小屋)、断面マチヤの解説なども行われたほか、和菓子の老舗「寶月堂」の2階、丸亀ビル(旧電電公社)などすぐにでも使用できるレンタルスペースも見学しました。散策を終、本学教員の西村和宏のもとフィードバックを行い、それぞれが街歩きで経験した想いや公演に向けてのアイデアを共有しました。県外から来た若者が面白がる視点、生まれも育ちも近隣の年配者の語る商店街の思い出話など、世代を越えた意見交換が活発に行われました。その後、12月にパフォーマンスを上演する候補場所を下見し、まちの駅として活用されている「秋寅の館」と、誰でも気軽に交流できるスペース「みんながオルデ通町」での上演が決定。「秋寅の館」は明治時代に建設された建物であることから、大正時代の倦怠期の夫婦とその妹を描いた「驟雨」(作・岸田國士)をプロの俳優と創作し、「みんながオルデ通町」は商店街に面した小スペースであるため、気軽に足を運んでもらえるように、本学学生・卒業生が中心となった一人芝居と二人の朗読劇で構成することになりました。
公演内容はこちら

◆丸亀市内の幼稚園・保育所・こども園
幼児向けパフォーマンス『さる・くる・さる』

2 0 2 2 年1 月1 7 日
講師:西村和宏( 四国学院大学准教授)
対象: あやうたこども園園児( 計8 2 名)

 

 

 

 

 

 

本学教員の西村和宏が作、同じく教員の阪本麻郁が振付した本作は、言葉あそびとリズムを中心としたパフォーマンスで、コロナ禍でも幼児の文化芸術鑑賞機会を確保すべく、マスク着用・少人数・PCR検査等感染症対策の実施を徹底し上演に臨みました。県内の感染者の急増などを受けて、予定していた7園での上演がやむなく中止となりましたが、どこでも上演できる作品のため、新市民会館開館後の、演劇を身近に感じてもらえる作品創りのヒントになればと思っています。

◆就労継続支援B型事業所たんぽぽ
「演劇」を中心に遊び合う瞬間

2 0 2 1 年5 月~ 1 2 月( 計4 回)
講師:仙石桂子( 四国学院大学准教授)
対象: 事業所利用者、スタッフ( 累計2 8 名)

たんぽぽでワークショップを始めたきっかけは、当事者研究(精神障害を持ちながら暮らす中で見出した生きづらさ等を持ち寄り、仲間や関係者と一緒にその人に合った“自分の助け方”や理解を見出していこうとする研究)に、仙石が興味を持ち、当事者研究を行っている本学社会福祉学部教授の西谷清美が理事を務める事業所に足を運び始めたことでした。当事者研究を学ぶうちに、その研究が、とても対話的で活動内容が演劇作品の創作と似ていたことから、2019年度より、2か月に1回程度ワークショップをするようになりました。ワークショップ参加者は、毎回、利用者5~6名、スタッフ1名、理事長、ワークショップアシスタント2名(本学演劇コース卒業生)です。ワークショップ開始前に、その日の状況や気分によって、インプロ(即興演劇)かグループワークで作品を作るか、どちらがよいかを参加者に選んでもらいます。ワークショップの中でも人気のある「嘘を見破る」ことをテーマにしたインプロのワークでは、普段、日常生活で「してはいけない」とされていることを、いかに上手にやるかを、参加者が演じました。普段、参加者と接しているスタッフからは、演じている参加者の斬新なアイデアに感心し、嘘が上手でなかなか見破れないなどの意見がありました。また、アイデアをクリエイティビティに」をモットーに毎回行っていますが、事業所でのレクリエーションの取り組みとして、参加者が自分の個性を表現できる場をどのように創っていけばよいかを学ぶ機会にもなりました。
3年程ワークショップをやってみて、利用者さんとの信頼関係もできてきた中、創作の場、発表の場をもっと設けることで、多様・柔軟性を知る新たな学びの機会になるのではないかと考えています。2022年に入って、これまでやってきたインプロのゲームから、シーンづくりにチャレンジしました。2022年度には、一つの作品を創作することにチャレンジする予定です。

シアター・プロジェクト活動報告 (2021年度 大学における文化芸術推進事業)

◆『東京ノート』
2 0 2 1 年1 0 月1 5 日~ 1 7 日
講師: 西村和宏(四国学院大学准教授)
場所: ノトススタジオ
対象: 丸亀市文化課職員、学生ボランティア(計1 5 名)

◆『BEACH CYCLE DELAY』
2 0 2 1 年1 0 月3 0 日・3 1 日
講師: 西村和宏(四国学院大学准教授)
場所: ノトススタジオ
対象: 丸亀市文化課職員、学生ボランティア(計1 5 名)

舞台芸術を観る人・やる人(実演家)・支える人を育てる「シアター・プロジェクト」。今年度も国際共同企画を2本上演する予定でしたが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、やむなく演目を変更することになりました。受講生とボランティアスタッフは本学教員指導のもと、演劇公演2本の運営に関わりました。予算管理、チラシの折り込み・DM発送、SNS管理などの広報、劇団の受入れ、当日運営の知識・スキルを身につけました。特に、『東京ノート』は出演者20名の受入れとなり、宿から劇場までの移動やケータリングの手配、コロナ禍での公演ということもあり、楽屋・舞台のコロナ対策などに気をつけながら進めていきました。その他、舞台・客席、照明・音響の仕込みを手伝い、プロの舞台監督やオペレーターから、作業工程やスケジュール調整について学びました。『BEACH CYCLE DELAY』では、ロビーに「apart」という映像作品と、「tsugime」と題したtrippenのシューズの展示も行い、来場者に劇場外でも楽しんでもらうことができました。今後の芸術性の高い現代演劇公演の企画に向けて、役立つ実務スキルの習得につながりました。

評価・プロジェクト / 活動報告 ・座談会(2021年度 大学における文化芸術推進事業)

これまで、丸亀市産業文化部文化課と共同で、劇場がどのように社会に貢献できるか、地域課題に対する文化芸術からのアプローチについて検討・実践してきました。これらの3年間の活動を振り返り、アウトリーチ事業の在り方やそれを継続していくにはどうすればよいか、本プログラムに関わって下さった方々で意見交換を行いました。また、本学社会福祉学部教授の西谷清美から、社会福祉の専門家からみた文化芸術について話を聞き、新市民会館の開館までに、今後何が必要なのかについて話し合いました。社会福祉における文化芸術活動は、“ケア・治療”ではなく、“市民としての活動”であり、地域の方々との交流を通じて、仲間を作り、地域を豊かにしていくことではないかとの意見を聞くことができました。また、新市民会館はすべての市民に劇場の恩恵を届けるという社会包摂型劇場を目指していますが、そのためには、“多様な市民”が主体的に関わることができるプラットフォームの構築が必要であり、市民が交流する過程を市民が共有できるような仕組みづくりが重要なのではないかなど、活発な意見交換が行われました。