『身構えることなく、人と関わること ~演劇×社会福祉の公演を通して~』


社会学部 身体表現と舞台芸術メジャー 桑原日和 さん
大谷高等学校出身。

NPO法人SAJA就労継続支援B型事業所たんぽぽ(※1)(以下「たんぽぽ」という。)と本学学生とで創作に取り組んだ、
四国学院大学社会学部プロジェクト演劇公演『ダンデライオンズ』。
(脚本・演出:仙石桂子 振付:白神ももこ(モモンガ・コンプレックス))
たんぽぽのメンバー3名の人生について話を聞いて、3つの短編作品が創作されました。
『後藤さんのお話』で主人公の後藤桐子を演じた桑原さん。
当事者の方と一緒に作り上げていくという新たな試みの中で、どのようなことを感じ、演じていたのでしょうか。

今回の作品は、「社会福祉と演劇ワークショップ」(※2)という授業の中で創作に取り組んでいますが、授業ではどのようなことをしましたか?

――はじめに当事者研究(※3)をしました。まずは、自分たちの中にある困っていることや抱えているものをみんなで話して、発表します。その中で特に気になる悩みをピックアップして、それを絵にしたり、悩みを書き出していったり、「こういう悩みを持っている子がいるなら、どう付き合ってくのか?」ということをみんなで考えていきました。当事者研究を経験してみて、人に話したことがないことを話すことで、自分の中で整理できたことや、自分ってこういうところがあったんだという気づきがありました。それに、他の人の話を聞いていると、自分と似ている悩みもあったので、「自分だけじゃないんだ」と安心できました。
当事者研究の後、たんぽぽがどういうところなのかを教えてもらってから、創作をスタートしました。

たんぽぽの方との交流や稽古はどうでしたか?

――はじめは人見知りもあって身構えていたんですが、みんな優しい方ばかりで、当事者の方も「なんでも聞いて!」と言ってくれて、すごく聞きやすかったです。錯乱した時の状況とか、自殺を考えた時はどういう気持ちだったのかとか、本当は聞かれたくないこともあったと思うんですが、色々なことを教えてくれました。話していくうちに、食べることが好きだったり、私の出身地である大阪にいたことがあったり、色々な共通点があることが分かって、とても楽しかったです。
最初は仙石先生がインタビューして書いた台本ですが、私たち学生が当事者の方と話す中で「ここ本当はこうらしいですよ」と仙石先生に伝えることで書き換えられた場面やセリフもあって、それぐらいお互いの距離が近くて、たくさんお話をしながら作っていきました。いつもだったら人見知りだし、知っている先生に聞きに行こうとしていたかもしれないんですけど、今回は当事者の方に聞こう、交流を深めようという気持ちがありました。
みんなで頑張ろうという稽古場の雰囲気もよかったです。

主人公の後藤桐子は、桑原さんにとってどのような役ですか。

――自分のことを見つめ直せる役でした。仙石先生に「あなたにすごい似てる」と言われていて、最初は分からなかったんですけど、やっているうちに自分でも「似てる!」と思うようになりました。私自身も人に話しかけるのは緊張するタイプなので、後藤さんを演じながら「分かる、分かる」という場面もあって。自分のことは客観視できないけど、役になることによって、「こういう気持ちだったのかな」とか「こんなことされたら嫌だよね」と考えたり、周りから見た自分もこういう風にしてたらたしかに話しかけにくい時もあるよな、と気づけることもありました。
今まで自分のことをあまり見つめられていなかったので、この役を通して見つめ直すことができて、本当によかったです。

主人公の後藤桐子を演じる上で苦労したことや役作りで工夫したことなどを教えてください。

――やっぱり、当事者の方が近くにいるということは意識しました。本人の前で演じる訳ですから、いつも以上に細かいところまで考えましたし、役についてもちゃんと分かって演じなければならないというプレッシャーもありました。自分がなったことのない状態を演じることが多かったので、それがどういう感覚なのか、どういう気持ちだったのか、ということを自分の中で理解することに苦労しました。でも、モデルになった当事者の方がいるので、「こういう風に演じて大丈夫ですか?」と色々聞きながら役作りをしていきました。当事者の方がいることで難しい面もあったんですけど、どういう気持ちだったのかを想像するだけでなく本人に聞くこともできたので、自分の中で後藤桐子という役がどんどんクリアになっていったような気がします。

作品に参加してみて、自分の中で何か変化はありましたか。

――はじめは、たんぽぽの方がどんな人かも分からないし、自分がなったことのない状態を演じるということで怖がっていました。でも、やっていくうちに、もちろん当事者の方がいるということは違いますけど、いつもの稽古と同じで、何も怖がることはありませんでした。当事者の方と接する時も、会う前はすごく慎重に丁寧に繊細なところまで気を付けてお話したりしないといけないのかな、と思っていたんですけど、実際に会ってみたらそんなことを考えずにお話をしていて、すごく楽しかったです。友達のような気軽さで話していたので、すごい勘違いをしていたんだなと気づけました。普通の人と話す時と同じようなことに気を付けていれば、かたく身構える必要はないのだと分かりました。
今までは、自分が出会ったことのない人に距離をとってしまう方だったんですけど、“そういう人”というくくりで見るのではなく、1人ひとり違う人間だから、実際に会ってみないと分からないんだ、ということに改めて今回の作品が気づかせてくれました。今回の作品に参加したおかげで、どんな人か分からないのに怖がったり、身構えて距離を置くということがなくなりました。

私は元々、社会福祉に興味があって、関われたらいいなと思っていました。でも、自分にできるのかが不安でした。今回の作品で実際に当事者の方と関わったり、演劇を創作したりする中で、もっと前のめりにやってみてもいいんだなと思えるようになりました。社会福祉は特別なものではなく、身近なものなんだと考え方が変わったと思います。

今回の作品に参加できてよかったことを教えてください。

――元々人とたくさん関わるのが緊張してしまって苦手な方なのですが、今回の座組は約50人という大所帯でした。会ったことのないたんぽぽの方や卒業生の先輩、劇団の方に会うことに緊張していたのですが、会ってみたら意外と楽しかったです。いろんな人と関わるということは、いろんな人の考えや価値観に触れる機会がいっぱいあります。自分の中になかったものがたくさん入ってきて、見えなかったものが見えるようになりました。人と関わることが前よりも得意になった気がします。後藤桐子の話はけっこうみんなが舞台に出ずっぱりだったので、共演者との関わりは濃かったと思います。今までそんなにお互いのことを話したりしていなかった子とも、稽古をしていく中でもっと仲良くなれて、よかったです。
たんぽぽの方だけでなく、卒業生の先輩や劇団の方も一緒に参加していたので緊張もあったのですが、みんな優しくて、たくさん教えてもらえました。それに、演劇は1人では作れないので、誰と作るのかというのはとても大事だなということも改めて分かりました。だから今回、たんぽぽのメンバーさんも含めてすごくいい座組にめぐり逢えたなと思います。

これからの将来にどう活かしていきたいですか。

――演劇でいえば役への向き合い方、演技をどうやってしていくか、生活の中では人との関わり方、相手をどういう風にみるのか、という点が自分の中ですごく変わった作品でした。ここからもっと自分に合う演技の仕方とか、自分なりの役の解釈の仕方とか、もっと人と関わっていく上で見つけていけたらいいなと思っています。
私は、社会福祉にも演劇のワークショップにも元々興味があって、いつか社会福祉に演劇ワークショップを活用させたいなと個人的に思っていました。演劇の力ってすごくあると思うので、何か問題を抱えている子どもたちとか、もちろん大人もですけど、演劇ワークショップを使って楽しみながら問題解決ができないかと考えていた時に、今回の作品に参加しました。だから、「やっぱりできるんだ!」という感動もあって、これからも頑張りたいなと前向きな気持ちになりました。ゆくゆくは演劇の手法を用いて社会福祉に関するワークショップができるファシリテーターになれたらいいなと思っています。

演劇コースに興味がある方へ、アドバイスやメッセージがあればお願いします。

――演劇って、なくても生きていけるものなんだろうなと思うんですけど、なかったらすごく悲しいし、ないといけないものだと私は思っています。だから、演劇をしたいと思った時、見たいと思った時には、できるだけやった方がいいと思います。四国学院大学は作品を見る機会も多いし、演劇に関する授業もあるし、先輩や後輩もみんな仲が良くて、すごくいい環境だなと思っています。だから、迷っているなら一度来てみて欲しいです。スカラーシップ(奨学金)制度(※4)も充実しているし、先生たちも優しくて話を聞いてくれる人たちが多いので、演劇を始めやすいし続けやすい環境だと思います。


四国学院大学社会学部プロジェクト演劇公演『ダンデライオンズ』(ノトススタジオHP/イベントレポート)

※1  「NPO法人SAJA就労継続支援B型事業所たんぽぽ」とは
前身は、1990年に精神障害者家族、支援者、市民等の協働によって開設された精神障害者共同作業所「たんぽぽ」。その後、移転や制度改変による存続の危機を乗り越えて、2006年にNPO法人化。2008年から就労継続支援B型事業所として利用者の生活支援、就労支援ならびに地域福祉活動を展開。駄菓子屋店舗運営、施設外就労、クッキーの製造販売、手芸品の制作等の他、クラブハウスや地域交流活動、研修会の開催、当事者研究ミーティング等を実施。「誰もが人生の主人公」をモットーに活動中。

※2 「社会福祉と演劇ワークショップ」
2021年度より新設された演劇ワークショップ実践マイナーの授業のひとつ。
演劇を活用したワークショップを体験し、深く考察し、その効果・方法について体系的、実践的に学んでいます。

※3 当事者研究
精神障害を持ちながら暮らす中で見出した生きづらさ等を持ち寄り、仲間や関係者と一緒にその人に合った“自分の助け方”や理解を見出していこうとする研究。

※4 スカラーシップ(奨学金)制度
演劇コースに特化した返済不要の特別奨学金制度。詳細はこちらから。