2020 年度 大学における文化芸術推進事業

地域の課題に向き合う社会包摂型劇場を創り、運営していくためのアートマネジメント人材育成プログラム
大学と連携する丸亀市の新市民会館「(仮称)みんなの劇場」開館準備プロジェクト2020

「課題リサーチ・プロジェクト」では、昨年度から引き続き矯正施設、福祉施設、教育現場で、さらなる課題の掘り起こしとそれらの課題に対する文化芸術からのアプローチについて本学教員と専門家、丸亀市文化課職員が考察しました。活動報告はこちら。
「アウトリーチ・プロジェクト」では、課題リサーチ・プロジェクトで得た知識や考察をもとに地域課題解決のためのワークショップを、矯正施設、福祉施設など計3 か所で行いました。また、保育所・幼稚園計11か所で、幼児向け演劇作品の上演も行い、様々な角度からアウトリーチ事業を実施しました。活動報告はこちら。
「シアター・プロジェクト」では、ノトススタジオにプロの劇団を2 団体招致。演劇公演の運営や、美術・照明などのスタッフ業について学びました。また、劇団の制作者から、国際共同企画に関する制作業務についてのレクチャーを開講し、より実践的で地域性・国際性を備えた人材育成プログラムを実施しました。活動報告はこちら。
「評価・プロジェクト」では、本事業が社会の課題解決にどのような影響を与えているのかを検証。地域の福祉施設や教育現場のニーズに沿え合いを繰り返し行いました。また、年度末には「活動報告会」を開催し、客観的・専門的な視点からフィードバックの機会を設け、最終年度に向けて人材育成プログラムのブラッシュアップを図りました。活動報告はこちら。

◎共催団体からのお声
今年度は、行政と大学だけでなく、社会課題の解決に取り組む NPO 法人 や女子少年院と協働することで、産学官が連携して社会課題解決に取り 組んでいくための基礎を作ることができました。それぞれの強みを生か し協働することの効果は大きいと実感しました。今後は、将来的なビジョンをより具体的に見据えながら、持続可能な協働の形を模索していきたいと思っています。(丸亀市産業文化部文化課)

課題リサーチ・プロジェクト活動報告(2020年度 大学における文化芸術推進事業)

昨年度から引き続き矯正施設、福祉施設、教育現場で、さらなる課題の掘り起こしとそれらの課題に対する文化芸術からのアプローチについて本学教員と専門家、丸亀市文化課職員が考察しました。また丸亀市は、課題とニーズ把握のためのアンケート調査や、福祉施設・医療機関・コミュニティなどと「車座集会」で意見交換を行っており、そこから得た情報をもとに、今年度は新たに、小児がんをはじめとする小児慢性特定疾患をもつ子どもたちを支援している NPO 団体と、障がいをもつ利用者の生活と労働を支援する福祉事業所にもヒアリングを行いました。ヒアリングで得られた結果を基に、本学教員らが丸亀市の各施設に特化したワークショップの研究と開発を行いました。

◆丸亀少女の家
ファシリテーター:仙石桂子(四国学院大学准教授) 2020 年7 月~12 月
昨年度は、施設職員に向けて即興演劇ワークショップを実施しました。これにより、演劇を通じた表現教育・コミュニケーション教育の可能性を感じていただきましたので、在院している少女たちの課題の解決に役立てられないかと、施設職員と、即興演劇の要素をどのような形で矯正教育に取り入れればよいかについて話し合いました。
【どんな課題?】
在院している少女たちは、複雑な家庭環境や、問題に対して適切な対処方法を教えてくれるモデルとなる人の不在などにより、 適切な社会的スキルを獲得しにくい状況のまま少女の家に収容されている場合が多いそうで、少女の家でのプログラムを終え、社会に出た後の対人関係(家族・職場・交友)をいかに構築するかが課題です。
【どうアプローチする?】
少女の家では、もともと出院後の危機場面を想定した社会適応訓練(ソーシャルスキルトレーニング)を実施していましたが、このロールプレイに大学で演劇教育を受けた経験のある者が介入し、少女たちとともに取り組めば、より現実社会に近い形での実践ができるのではないかと考えました。ロールプレイの設定を、少女たちのニーズに沿ったものとし、より詳しく対処方法について学んでもらうことを目標に、ファシリテーターと施設職員が何度も打合せを重ねました。
◆特定非営利活動法人 SAJA 就労継続支援B型 たんぽぽ
ファシリテーター:仙石桂子(四国学院大学准教授) 2020 年7 月~12 月特定非営利活動法人 SAJA は、障がいをもつ利用者の生活と労働を支援し、地域において利用者自らが描く安心できる生活の確立と維持を支援するNPO 法人です。メンバー(利用者)さんとスタッフ(福祉施設従事者)さん、理事⾧である本学社会福祉学部教授の西谷清美氏と一緒に「物語を作って遊ぶ」というイメージで即興演劇のワークショップを行うことにしました。まずは 物語を作るところから始め、その後、それを自分たちで演じてみることにしました。
【どんな課題?】
精神障がいがある事業所利用者は、幻覚や妄想について語ることは良くないことだと思ってしまう人が多いそうです。自身からで てくる幻覚・妄想をクリエイティビティとして捉え、他者と共有できる場を創りたいと思っています。
【どうアプローチする?】
即興演劇の “頑張らない”、“弱さを認める”、“ユーモアを大切にする” という要素を取り入れ、幻覚・妄想について、語り合う場 を作ります。幻覚や妄想をもとに、一人ひとり違うキャラクターを創り上げ、ひとつのストーリーに仕上げていきます。それらのワークを通して、のびのびと語ったり、演劇のワクワク感を体感してもらいます。
◆特定非営利活動法人未来 ISSEY
ファシリテーター:阪本麻郁(四国学院大学准教授) 2020 年7 月~12 月未来 ISSEY は、小児がん・心臓病など慢性的な疾患をもつ⾧期入院・治療が必要なお子さんとそのご家族を支援する NPO 法人です。病気のために、入院を余儀なくされ社会とつながる機会が少ない子どもたちは、勉強したり、友達と遊ぶといった日常生活を送ることができない場合が多いのです。また、当事者のみならず家族も、相談できる人、場所もなく不安な毎日を過ごしています。
【どんな課題?】
支援ボランティアである「チーム・グッドブラザー」は、医療・福祉・教育を学んでいる学生、病弱児支援に関わりたい県内の大学生・ 専門学校生等で構成されています。新型コロナウイルス感染症拡大を受け、さらに他者との接触が制限される中、これまでのよう な関わりができないため他にやり方がないか、また文化芸術(身体表現)からのアプローチで、どのような支援ができるのかを探りました。
【どうアプローチする?】
コロナ禍で、病院への訪問が制限される中、入院、治療中の高校生と「チーム・グッドブラザー」は1対1で関わる Zoom での 交流を行っています。今回は、退院し自宅療養中の高校生2名と、「チーム・グッドブラザー」5名がファシリテーターと共に Zoom を通じてのワークショップという形式を体験してみることになりました。

アウトリーチ・プロジェクト活動報告(2020年度 大学における文化芸術推進事業)

◆即興演劇を取り入れたソーシャルスキルトレーニング
2020.8~2021.1(計6 回)
講師: 仙石桂子(四国学院大学准教授)
場所: 丸亀少女の家
対象: 丸亀少女の家在院者(参加者6名)

普段、丸亀少女の家で行っているソーシャルスキルトレーニングでは、少女の家でのプログムを終え、社会に出た後に起こりうる対人関係(家族・職場・交友)の危機場面を想定し、在院者同士もしくは職員が入ってロールプレイを行い、内容について振り返っています。現実社会の危機場面で咄嗟のアクションを取らないといけない状況に、即興演劇の手法が効果的であることから、ロールプレイに演劇教育を受けた経験がある本学の卒業生が参加し、より現実社会に近い形で行いました。
第1回目は、交友関係における危機場面を、「出院後、ショッピングモールで以前交友のあった不良少年にばったり出くわす」という設定にし、在院者同士でロールプレイした後、在院者と演劇経験者で演じました。演劇経験者が介入したパターンでは、在院者が想定していないことに対して即興で対応する場面が見られ、在院者たちの想像力・表現力を向上させるきっかけとなりました。職員たちも、普段ロールプレイしているのとは違い、よりリアルな言葉(セリフ)や表情、態度など演じ方について体感することができました。即興演劇を取り入れたトレーニングを福祉施設で実施することで、福祉施設従事者に、表現教育・コミュニケーション教育の有用性を体験してもらうことができました。また、丸亀市文化課職員は、演劇関係者が介入したロールプレイがもたらす成果を見出すために、フィールドノーツを書き、ロールプレイ後、本学教員らと振り返りを行いました。全トレーニングを終えた後には、参加してくれた在院者と職員にインタビュー調査を行い、本学社会福祉学部助教の北川裕美子氏の協力を得て、即興演劇をソーシャルスキルトレーニングに取り入れることで得られた結果について分析を行います。これらを通して、丸亀市文化課職員は、社会的価値を可視化するデータを収集することができ、今後、劇場の社会包摂機能を説明するエビデンスの獲得につなげることができました。

◎参加者からのお声
対人関係の課題を有する少女たちが多い中、少女たちと年代の近い演劇 経験者にソーシャルスキルトレーニングに参加していただくことで、い つもとは違う空気が生まれ、社会に帰ってからの生活がより想像しやすいものになったと思います。また、ロールプレイ後のフィードバックにおいて、一般の方の視点から良いところや改善点を言っていただくことで、どのような対応が望ましいのかを多角的に考えられるようになったように感じます。御協力いただき、ありがとうございました。

◆「演劇」を中心に遊び合う瞬間
2020.11~2021.3(計3回)
講師: 仙石桂子(四国学院大学准教授)
場所: 特定非営利活動法人S A J A就労継続支援B型たんぽぽ
対象: 事業所利用者(参加者6名)

物語をみんなで作って遊び合うワークショップ。アイスブレイクで緊張をほぐした後、参加者それぞれに「なりたい役」を考えてもらいました。

チームに分かれて、その「役」がどんな性格や年齢で、仕事は何なのか、また、その登場人物たちがどんな関係なのかを想像し、模造紙に書き込んでいきました。書いている瞬間は、笑いあり、うーんと悩む場面ありと、各チーム苦戦するところや、盛り上がるところもそれぞれ異なりました。「市⾧」「総理大臣」「ロシアの美女」「ベテラン女優」など自分の頭の中の様々な役を、他の参加者たちと共有しながら、チームで物語を作っていきました。

自分ではない「なりたい役」で、他の人と瞬間的にコミュニケーションをとり、チームの中で対話をしながら、「演劇」を中心に遊び合いました。その後、それを元に演劇にして発表しました。リハーサル時間もあり、構成もきちんと何度も練習できるチームも、話がぎりぎりで決まり、即興で演じるチームもあり、「遊び合い」は発表の際にも「演じる側」「見る側」ともに興味深いものとなりました。そして最後には振り返りを行い、お互いの感想を共有しました。ワークショップ後に福祉施設従事者にインタビューを行った際には、普段のメンバーさんと異なる一面が出てきたこと、自分自身の「演じてみる」ことの可能性について話してくれました。

◆『闘病中の高校生とのZoom ワークショップ』
講師: 阪本麻郁( 四国学院大学准教授)
場所: 四国学院大学研究室
対象: 自宅療養中の高校生、未来ISSEY
「チーム・グッドブラザー」メンバー( 参加者10 名)

今年度は、退院し自宅療養中の高校生2名と「チーム・グッドブラザー」を対象としZoomによるワークショップを計2回試みました。「チーム・グッドブラザー」として香川大学学生や本学学生ら延べ10 名が参加しました。通常の1対1のZoom での交流と違い、Zoomでのワークショップが果たしてうまくいくのか、参加者皆が不安な中、親交を深めるためにアイスブレイクから始めました。

その後、身体を解すヨガ、想像力や互いの経験を共有するインプロ(即興)という内容で進めていきました。インプロでは、参加者それぞれの部屋の中で一番大事なものを持ち寄り、それについてのエピソードやそれが大事な理由などを発表しました。普段、療養中の高校生は、闘病についての話などを避けることが多いようですが、ワークショップにより、闘病中の辛さやその中にも病院の方々との交流によって助けられた思いなどを引き出すことに繋がりました。

Zoom での多人数で行う交流の可能性への気づきやコンテンツの共有など、「チーム・グッドブラザー」の普段の活動への支援も同時に行う事が出来ました。今後、遠隔によるコミュニケーションの方法や参加者の身体性や想像力、創造性をより引き出せる方法を模索したいと考えています。

◆子ども向け演劇『さる・くる・さる』
2021.1~2021.2(計11回)
講師: 西村和宏・阪本麻郁(四国学院大学准教授)
場所: 丸亀市内の保育所・幼稚園1 1 カ所
対象: 園児(参加者0~5歳児約8 0 0名)

コロナ禍で様々な体験や学びの機会が失われた保育所・幼稚園の子どもたちのために、本学教員で演出家の西村和宏と振付家の阪本麻郁が共同でオリジナルのパフォーマンス作品を創作。出演者はマスク着用で2名のみ、子どもたちとの接触なしなど感染症対策をしっかり行った上で、丸亀市の保育所・幼稚園11カ所で上演しました。観劇前の準備としてダンスのワークショップを阪本が担当し、その後にパフォーマンスを上演。

オリジナルの楽曲に合わせて、女の子の言葉遊びとおさるがコミカルに動く本作は子どもたちに大好評でした。

上演後、子どもたちからは、「おさるが寝たところが面白かった」「女の子が可愛かった」「音楽が良かった」「明日も来て!」などの声が上がり、園⾧先生からも「子どもたちへの言葉や体への興味が深まる」「来年度も来て欲しい」「大人も楽しめた!」など嬉しい言葉をたくさんいただき、改めて幼児教育における舞台芸術の必要性を実感しました。

シアター・プロジェクト活動報告 (2020年度 大学における文化芸術推進事業)

マームとジプシー公演  『てんとてんを、むすぶせん。からなる、立体。そのなかに、つまっている、いくつもの。
ことなった、世界。および、ひかりについて。』

2021.9/26、9/27
講師: 西村和宏(四国学院大学准教授)
場所: ノトススタジオ、ミーティングルーム
対象: 丸亀市文化課職員、大学生(参加者9 名)
マームとジプシー公演
ノトススタジオで上演されるマームとジプシーの公演運営に、丸亀市文化課職員が参画。今年度は、国際共同企画を予定していましたが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け、イタリア人俳優の来日の見通しが立たず、やむを得ず演目を変更することになりました。本学教員の指導のもと、公演5か月前より、上演に関する渉外、宿泊・移動の手配などの演劇公演についての制作実務に携わりました。その他、仕込み・当日公演・バラシ作業に関するスケジュール調整について担当者間で打合せを重ね、当日は劇場での受付を担当し、開演までの流れについて学びました。

また、マームとジプシー制作の林氏による、国際共同企画に関する制作業務についてのレクチャーを開催。当初上演を予定していた、国際共同企画『IL MIO TE MPO -わたしの時間-』のイタリアでの経験について話を聞くことができました。

国の違う俳優が集まる場合の企画に関する工夫や、俳優・スタッフが平等に作品創りに携わる重要性について学びました。また、より多くの、かつ多様な客層に演劇を楽しんでもらうために、演劇以外のアーティストとのコラボレーション企画や集客方法についても聞くことができました。

青年団公演『眠れない夜なんてない』
2021.2/18 ~ 2/20
講師: 西村和宏(四国学院大学准教授)
場所: ノトススタジオ、ミーティングルーム
対象: 丸亀市文化課職員、大学生(参加者2 4 名)


プロの舞台監督や照明オペレーターから作業工程を学びました。本公演は、俳優だけで15名、スタッフも入れると20 名の受け入れとなりました。劇団の受け入れや、当日運営に関して、実際に劇団で実施していることを教えてもらいながら、実践しました。今年度は、コロナ禍の中、演劇公演を行うということで、劇団内で行っているコロナ対策などについても、詳しく聞くことができました。また本学演劇コースの卒業生で青年団制作の太田氏より、制作という仕事について教えてもらいました。現場での声を聞くことで、制作者が担うべき業務について学ぶことができました。公演までにやるべきこと、特に広報・集客について、ホームページ、SNS の効果的な使い方や、情報公開についての劇場と劇団のやりとりについてもポイントを教えていただきました。通常の劇場での制作業務に加え、豊岡演劇祭など、大きなイベントを経験している制作者から、実経験を聞くことができたのは、将来制作者を目指すものにとって大きな収穫となりました。

 

評価・プロジェクト活動報告 (2020年度 大学における文化芸術推進事業)

評価プロジェクトでは、各ワークショップの実施後に、次回の実施に向けて、より参加者のニーズに沿えるよう、打ち合わせを重ね、ブラッシュアップを行いました。また、ワークショップや公演がどのように地域の福祉施設や教育現場に影響を与えたか、ニーズ調査の結果を踏まえながら考察。市民会館の開館に向けて、今回行ったワークショップ・公演や、劇場そのものが社会的にどういう影響を与えるのか、なぜ必要なのかを、市民に対してどのように説明すればよいかを話し合いました。
また、2021 年3月18 日には丸亀市文化振興審議会特別委員でもある特定非営利活動法人iさいと代表理事の井上優氏をファシリテーターとして迎え、「活動報告会」を開催。今年度の活動の振り返りを行いました。報告会には、本学教員と丸亀市文化課職員、受講生が参加し、前半は準備プロジェクトで得た知識や体験の活動報告を行い、評価プロジェクトの検証結果も合わせて参加者へフィードバックしました。
後半は、ワークショップを開催した施設職員が、他の施設で行われた活動を見て、自分たちのところでも取り入れられないか、もしくは応用できないか等を話し合いました。
本学教員と丸亀市文化課職員は、今後、新しい市民会館で、市民に向けたどのようなアウトリーチ事業が必要かについても言及。最後には、次年度以降の、地域・行政・大学間での持続可能な協働の形を探りました。
活動報告会